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6月のゲジゲジ
ゲジ×ゲジ

夕方の下校時刻になってもまだ雨は降り続いていた。

ボクは大きめの傘を開くと、家路を行く生徒の間を縫うようにして校門を出た。


友達同士で楽しそうにふざけ合うやり取りを聞いて、胸が苦しくなった。


傘の柄をギュッと握りしめ、一人寂しく帰るわびしさを紛らわせるため、ボクはおじじから教わったカエルの歌を小さく口ずさんだ。



「ゲーコ……ゲーコ」


「ゲーコゲーコ、かえるのゲーコ」


歌詞もへったくれもないカエルの鳴き声を歌ったこの曲は、おそらくおじじの作詞・作曲なのだろう。言葉選びのセンスの無さが全面に押し出されていて、口ずさむたびに笑ってしまう。


何度も何度も自分を励ましながら歌ううちに、次第にボクの声も大きくなり元気が出てきた。


ボクは軽快に傘をクルクルと回してまた歌い出す。


「ゲーコ、ゲーコ……」



「……っ!!」


曲がり角に差しかかった所で、前方から小さなうめき声が聞こえてきた。



何事かと顔を上げると、陶器のように表情のない顔が静かにボクを見下ろしていた。



(ぎやぁっ!!!!)


ボクは目の前に立つ人の風貌に奇声を発しそうになって、慌てて手で口を覆った。



染髪された朱色の髪。


不健康そうな肌色。


短い眉毛に、グリーンの瞳。

そして、その目の回りを黒くグルッと囲った化粧がとても印象的だった。



(ふ…ふふ…不良だ!!!)


(い…いや、でも化粧が……そもそもこの人は男なのか!?でも、ボクより10センチ位は背が高いし……)


見れば見るほど、ボクには彼が怪しく思えた。


注意深く相手の顔を伺えば、どうやらボクが振り回していた傘から飛んだと思われる雫が彼の顔に盛大にかかっていて冷や汗が出た。


(どうしよう!?怒ってるよね絶対。いやよく解らないけど)


その抑制された表情からは何も読みとれないが、彼からみなぎる不思議なオーラと威圧感から、怒っているようように感じた。


(こっ……ここ…こ…こわすぎるっ!!)


「すみません!!本当にすみません!!ボクちゃんと前を見てなくて」


深く頭を下げたボクの視線の先には、黒のブーツと破れたジーンズから覗いた膝小僧があった。


(参ったなぁ。どうしよう!?)


相手からの反応が何もなくて困り果てたボクは、上目遣いに相手のようすを伺った。


彼は真っ黒な羽根つきフードコートの袖口で、ごしごしと顔を豪快に拭っていた。


指や腕にはゴツゴツとした装飾がいくつもはめられていて実に拭き難そうだ。


「あの……よかったらコレ……」


そう言ってボクは今日は濡れるだろうからと、あらかじめ用意していたタオルを鞄から取り出すと、相手に差し出した。


ただ、思いっきりスーパーの名前が入っているけど。

ボクの問いかけに、相手の男性がこちらをジッと見据えた。


(やっぱりこわっ!!!!)


グリーンの瞳とこれでもかと目の回りを囲ったメイクから生み出される目力はハンパではなく、ボクは彼と目が合うと勢い良く目を背けてしまった。


(うわっ……感じ悪いことしちゃったな)


そう思いながらも、一度目を反らしてしまったからにはもうどうすることも出来なかった。


ボクはそっぽを向いたままびくびくと震える手で彼にタオルを握った腕を伸ばした。



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