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6月のゲジゲジ
嫌われ者の真野くん。

6月。


二年六組の窓から見える外の世界は潤っている。


校訓が書かれた碑の一角には青や紫の鮮やかなあじさいが咲いていて、その上では大粒の雨がリズミカルに何度も弾かれていた。


あじさいを見るたびに、去年広告塔に張られていたあの作品がボクの脳裏をよぎる。



(綺麗だな……)


梅雨に染まる校庭全体と美しく咲くあじさいの花をボクはボンヤリと眺めていた。


「……の……」


雨水を受けたグラウンドはその大部分がぬかるんでいて目視でも、かなり歩きにくそうなことが分かる。


ゴミを捨てに来た事務員のおじさんさんは、コンクリートの道を選んだにも関わらず足を滑らせて派手にすっ転んでいた。傘が宙に舞って、激しく尻もちをつくおじさん。その姿に、思わずクスリと笑ってしまった。


「真野!!!」


「はっ…はい!!!」


いきなり大声で名前を呼ばれたボクは、勢いよく返事をするとイスを引いて立ち上がった。


クラスメイトの眼差しが肌に突き刺さる。


「しっかりしてくれよ!?先生は5回もお前の名前を呼んだんだぞ!?」


どうやら担任が出欠をとっていたようで、いつまでも返事のない僕にしびれを切らせていた。


(いつの間に入って来たんだろう……)


担任が教室に入って来た事にも気づかぬほどにボクの意識はここにはなかった。

「……すみません」


四方から忌み者を見るクラスメイトの視線を感じながら、ボクは蚊の鳴くような声で謝罪した。すると周囲からは様々な蔑みの野次が飛んできた。


「キモーい」


数人で固まってヒソヒソと話すのはクラスの女子。


「早く魔法学校に帰れよ」


これはボクの容姿に対する指摘。ボサボサ頭と丸メガネが世界一有名な魔法使いの少年に似ているんだ。


「ちっ……調子に乗ってじゃねぇぞ」


こちらには目もくれないで舌打ちまじりにそう呟いたのは、ちょっと怖い男子生徒。


ボクに直接言ってくれれば良いのに、聞こえるか聞こえないかのボソボソとしたみんなの言葉はボディーブローのように後からじわりじわりと効いてくる。



「こら!!みんな!!悪口は良くないぞ!!真野だってな、好きでこの容姿なんじゃないんだからな!!」


熱血漢で知られる数学教師の担任はフォローどころか、言葉のオブラートの包み方を知らない。


「……はぁ」


なんと返事をしてよいやら分からずに、歯切れの悪い言葉が口からは漏れた。


そんなボクのようすが気に障ったのか、担任は少し顔をしかめると再びボクに注意を促した。


「いいか真野!!外ばっかり見てるんじゃないぞ!!いくら勉強が出来ても先生の話を聞かなくていいって訳じゃないんだからな!!ほら、返事は!?」


その小学生を叱りつけるかのような担任の口調に、周りはドッと笑った。


「わかりました……すみませんでした」


ボクは嘲笑の中で腰を下ろしながら、今すぐ消えて無くなることが出来ればいいのにと心から思っていた。

そんなボクには気付きもしない担任は、自分の仕事をやりきったといわんばかりに鼻を持ち上げて黒板の前の椅子に座りふんぞり返っていた。


そして、その姿はどこかそんな自分に酔いしれているようだった。



新しいクラスになってから二ヶ月。


イジメこそ受けてはいないものの、ボクはみんなから嫌われている、クラスで浮いた存在だった。



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