6月のゲジゲジ
逃げだした臆病者8
「勝手に入ってくるな!!」
聞いたことのないパンちゃんの怒鳴り声に、意識が呼び覚まされていく。
「な、なに!?」
一体、誰が来たんだろうとボクは考えを巡らせた。閉めきらなかったリビングのドアから、客人とパンちゃんのケンカ越しのやり取りが聞こえた。
「なんだよ!?もう入れてくれないのか!?昨日も言っただろ、俺はお前と別れる気はねえって」
「……つきあってない」
(に、新見さん!?家まで押しかけて来たのか!?)
「おいおい。あんなに俺の腕ん中で喘いでおきながら、どうやったらそうなるんだよ!!」
(うわっ!!近づいてくる)
「……べつにあんたに喘いでたわけじゃない」
「忘れられない彼を思ってってか!?」
(へっーー!?)
「……そんなんじゃない」
「ハッ!!そうだよな!?完全にお前の片想いだもんな」
「ああ。…………だからあんたと、遊んだんだ」
「ふざけんな!!人を弄ぶのも大概にしろ!!何でわからない!?俺がこんなに……こんなに……」
「さわるな」
ピシャリと言ってのけたパンちゃんの言葉の内には、拒絶という鋭いトゲが含まれていた。
それが新見さんの逆鱗に触れたのか、パンちゃんの嫌がる声と共にドスドスと二人分の足音が近づいてくる。
(……か、隠れなきゃ)
どこか、どこか。
早く。
ボクは慌てて先ほどまでいたキッチンに滑り込んだ。
「ハァ……ハァ。ここなら、きっと」
しゃがみこんだボクと入れ替わるようにして、二人がリビングへと入ってきた。
バレてはいけないというプレッシャーが、重くのし掛かる。
息をするのも躊躇い、ボクは恐怖と緊張で口を覆った。
(こんな所にボクがいるのがわかったら……余計にこじれる!!それだけは絶対に避けなければ)
「……はなせ」
「言葉で言ってもわからないなら、教えてやるよ。俺がどれだけお前を想ってるかを……その体にな!!」
「……くっ……やめろ」
(ぎゃああぁぁ!!やめてくれー!!)
本日二回目の男同士の濡れ場の開始に、本気で止めてくれと願った。
今度は教室の外にいる訳じゃないから、二人の情事が直に耳に届く。
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