6月のゲジゲジ
逃げだした臆病者7
「あの、パンちゃん……ボクは……」
(ボクは何だっていうんだ)
逸らされない視線。
手の熱さ。
(ダメだ……わからない)
パンちゃんからぶつけられる感情は、言葉も行動も直球すぎる。
(……ボクは、一体どうしたいのだろう)
出逢ってたった二日で人を判断できるほど、ボクは出来た人間じゃない。パンちゃんがぶつけてくれたこの真っ直ぐな想いを、ボクは完全に持て余していた。
(それに、どうしてボクなんだ……臆病で、友達も少なくて、頭の中は生け花のことばかりだ。綺麗な子も格好いい子も世の中にはたくさんいるのに……どうしてボクなんだ!?)
もう一度口を開きかけた所を、ピンポーンと押された呼び鈴が遮る。
「パンちゃん……鳴ってるよ、チャイム」
「うん」
そう言うと、パンちゃんはボクの手を離して玄関へと向かった。
ボクはその場にへたり込みそうになるのを何とか凌いだ。
「……反則だよ、あんなの」
生まれて初めて人に好きだと言われ、全身が心臓になったように脈打った。
込み上げてくるものを、口をおさえてまた飲み込んだ。目の前は白く、耳が遠い。
まるで自分と世界を切り離されたような錯覚に、ボクは陥った。
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