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6月のゲジゲジ
逃げ出した臆病者3

その後、どこの部を回ってもパンちゃんは優雅に自分の欲しいものを手にしていた。


しかもこの男、ちゃっかりエコバックにミニバラなんか隠し持っていて、商品を譲ってくれた女性に一本一本プレゼントしていたのだ。


「ありがとう。これ、あげる」

「まあ!?綺麗なバラ。香りも素敵」



「キ、キラーだ!!マダムキラーだ!!」



時間差で行われるタイムセールの行く先々で、ボクはパンちゃんの背中に向かってそう呟いた。



一通りすべての買い物が終わり、会計を済ませようとレジに向かったところでボクは財布がないことに気がついた。


ボクは身一つで学校を飛び出して来たことを、完全にわすれていた。


「…………どうしたの!?」


「ごめん!!パンちゃん。ボク、財布が……メロン止めよう。置いてくるよ、貸して」


「大丈夫。買ってあげる」



「えぇ!?ダ、ダメだって!!そんなの……だってメロンだよ!?高いよ。ダメだって!!こら、貸せ!!手放せ!!」




ちゅっ。





(……い、今……なんか昨日のデジャブが……)



そろりと視線を上げると、パンちゃんがメロンを両手にボクを見下ろしていた。


「黙らないと次は口にする、ここで」


その艶っぽさとヨネ子さん直伝の威圧感に、ボクは黙って口を閉ざすしかなかった。


周りの視線が妙に熱い。おばちゃん達のジェラシーや、よく分からない好奇の眼差し。


ボクは恥ずかしくなって俯いた。


(やっぱりしやがったー!!なんだよ昨日から!?キス魔か!?キス魔なのかパンちゃんは!?)


「い、いらっしゃいませ〜。198円が一点、260円が一点……」


明らかに動揺した店員さんが次々に買った物の金額を読み上げていく。


それに合わせて、レジの機械がバーコードを読み込む音が続いた。



「以上で、お会計8531円になりま……す」


店員さんの言葉が変に尻すぼみになったのには訳がある。


用意されていたパンちゃんの財布から覗く諭吉様が、何十人もいたからだ。


(こ、神々しい!!……なんだ…なんなんだ、この金持ちは!!)


羨望と妬み満載の表情で、ボクはパンちゃんを見た。


「はい」


「あ、ありがとうございます。お釣りが……」


「お釣り、いらない。行こう、真野」


パンちゃんはエコバックを受けとると、再びボクの手を引いてどんどん歩いていく。


「えっ!?あっ……へっ!?ちょっと待って!!」


背後からは店員さんの、ありがとうございましたという声がこれでもかと張り上げられていた。



今度はどこに。


連れられるがまま、ボクはパンちゃんだけが知る次なる行き先へと足を動かした。





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