6月のゲジゲジ
逃げ出した臆病者
どこに行けばいいのか分からなかった。
ただ靴を履いて、ボクは何も持たずに学校を飛び出していた。
走って、走って、走って。
たどり着いたのは、あの広告塔の前だった。
以前は鮮やかなあじさいが咲き誇っていたその看板も、今は新商品の化粧品かなんかで人気モデルがにこやかにポーズを取っていた。
「ハァ……ハッ、ハァ……ハァ、苦しい」
そして、寂しい。
目の前の広告を見ながらボクはそう感じていた。
「……なに、してるの!?」
「へっ!?うわぁ!!パ、パンちゃん!?」
ほんの数歩離れただけの場所に、パンちゃんがいた。全く気配を感じなかったので、ボクはメチャクチャ驚いた。
「なに、してるの!?」
「えっ!?あーっと、ラ、ランニング!?」
「…………制服」
キュッとボクのシャツの裾を掴むと、パンちゃんは不思議そうに首を傾げた。マラカイトグリーンの瞳が真っ直ぐにボクに向けられる。
「……ウ、ウソつきました。すみません」
「うん」
ボクがついた下らない嘘を咎めるわけでも罵るわけでもなく、パンちゃんはただひとつ頷いた。
「あ、あの……」
まさか、朝学校に行ったらクラスメイトがセックスの真っ最中だったので……興奮して、それから怒ってカバン投げて挙げ句に、走って逃げてきた。
とは言えなかった。
しかも二人は男同士。
パンちゃんと新見さんも男同士だったけど……。
(無理!!絶対に無理!!言える訳ない、こんなこと)
青ざめるボクに、パンちゃんは無理に先を聞こうとはしなかった。
「…………行こう。真野」
「へっ!?どこに!?」
ボクはパンちゃんに引きずられるまま、どこに行くのと繰り返しながら後に続いた。
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