6月のゲジゲジ
人気者4
「いや、大丈夫だから。それよりちゃんと服着たら!?風引くよ!?」
からかわれているのに気が付いて、ボクは至極当然の事を口にした。
「つれないなぁ」
クスリと笑いながら、名張は廊下側一番前の机に腰掛けて第二ボタンを留めた。
「でも、壱くん。こいつ、ずっと聞いてたんだよ!?……その、ボクのこ、声とかもさ」
「ずっと……ではないですけど、確かに聞いてました」
ここで嘘をついたって仕方がない。潔く非礼を詫びよう。
「やっぱり!!お前はそういうヤツなんだ!!陰気だし、ハリーだし、キモいし!!なんてったって、俺たちがヤってるの聞いて、完勃ちだもんな!!……お前ほんっっとに最低だな、ダサ野!!」
畳み掛けるようなその言葉は、教室の壁を跳ね返ってキーンと木霊した。
ハアハアと荒い息を吐く橋本くんの背を、名張がトントンとあやすように柔らかく叩く。
「というか、あの状況で聞くなと言う方が無理です」
「なっーー!?」
驚いた橋本くんの後ろでは、降り止まない雨が窓を濡らして曲線の模様を作っていた。
不揃いな大きさの雨粒が、上階のベランダ端からいくつも同時に垂れ落ちる。
(……どうして嫌われるんだろう)
(確かに立ち聞きしてたのは悪いと思ってるよ。完勃ちも)
「声なんて廊下まで筒抜けでしたよ!?」
(なんで上手く行かないんだろう……)
「い、言いがかりはヤメロよなっ!!そんな訳あるか!!」
真っ赤に熟れたリンゴみたいな顔した橋本くんが、ボクに掴みかかってきた。
「本当です」
分からない。
分からないから、イライラする。
「何だよお前!!開き直るんじゃねえぞ!!」
「開き直ってるのはどっちですかっ!!」
ボクは、自分の首を締め上げる橋本くんの手首を負けじと握りしめた。
「おい!!お前ら……」
「何だよお前、ダサ野のくせにウザイんだよ!!」
コントロールが出来ない。
ああ……ダメだ。
爆発する。
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