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6月のゲジゲジ
BLACK PANDA

それは昨年、季節は端午の節句を迎えたゴールデンウィーク最終日。


人々は大型連休に名残惜しさを感じさせるような、どこか複雑な表情をして街を闊歩してた。


ボクは本屋に向かう途中で、そこでたまたま目にした薄型テレビの広告に見事に心を奪われた。




(……すごい……)



淡い色味の緩やかな曲線を持つ美しい花器。そして、そこには季節を先どった青や紫、赤紫のあじさいが生けられていた。


見事なグラデーションで人の目を釘付けにするあじさいももちろん美しかったけれど、ダイナミックな構図で花の持つ艶っぽさとみずみずしさを表現した生け手の感性が光る素晴らしい作品だった。



(……キレイだ…今にもボクのところまで香りが届きそう…)



ボクは地面に根が生えたかのようにその場から足を動かす事が出来ず、瞼に至ってはしばらくの間、瞬きさえし忘れていた。


(一体誰が生けたんだろう……!?師範!?それとも別の流派の家元の方かな!?)


おじじ亡き後、ボクが師事している人は華道界ではかなり名の知れた人で、雑誌やテレビの仕事を受けることがざらにあった。


彼女じゃなくても、おそらくは展覧会や何かで顔くらいは知っている人だろうと、ボクは広告のすみに視線をずらし電化製品のメーカーや発売日などが印刷されている中に目を凝らして生け手の名を探した。


やっと見つけたそこには、アルファベットでこう記してあった。



『作:BLACK PANDA』



「………………ダレ!?」



(しかも、ブラックパンダって。パンダが黒かったら熊じゃないか!!!!)


性別さえも分からないブラックパンダと名乗る作者が、それでも玄人でないだろうことは想像がついた。


(大体このネーミングは格好良くない!!)


相手もボサボサ頭で丸メガネのボクには言われたくないだろうけど。


「はぁ……。」


感動作に出逢って喜んだのもつかの間、ボクは変なところで意を削がれ、ヨロヨロと再びペダルを踏みしめると、本来の目的地であった本屋へと足を進めたのだった。



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