6月のゲジゲジ
若き真野くんの悩み3
ボクは着替えを終えて、キッチンに立って野菜を洗った。
食事の支度をしながらいつも観るバラエティー番組に、今日は何故だか全然集中出来ない。
水道から流れる水音に母の声が重なった。
『数少ない本物の恋は、大いに楽しみなさい』
……本物、だったのだろうか!?
ボクの脳裏に、帰りがけに揉めたパンちゃんと新見さんの姿が鮮やかに蘇った。
少なくとも相手は本気だったんだ。
雨空の中、居てもたってもいられずパンちゃんに会いに仲の悪い流派の稽古場まで足を運ぶくらい。
一緒にいたボクに声を荒げて突っかかってくるくらい。
それくらい……想っていたんだ。
でも、パンちゃんはきっとそうじゃなかった。
ボクはニンジンの皮を丁寧に剥くと、包丁を動かして乱切りにした。
今度は冷蔵庫から鶏肉を取りだし、別のまな板で一口大に切り分けていく。
電話口で話している時も迷惑そうというか……パンちゃんはどこか困ったような表情だったし。
それに、本当に新見さんが好きだったら、ボクにあんなこと……しない。
「あ゙ぁ゙ぁ゙ーーー!!!もう、何だよ!?何だったんだよアレは!?そもそも、ゴメンでちゅうするか!?ちゅうするのか普通!?」
口じゃなかったのがせめてもの救いだ。
手作りのサラダドレッシングを激しくかき混ぜながら、恥ずかしさのあまりボクは獣のように咆哮した。
「ボクは一般的な日本男子なんだ!!うぁ゙ぁ゙〜!!」
ドレッシングが辺りに散乱するのも構わず、ボクは混ぜ続けた。
鍋からは食欲をそそる、シチューのいい香りがした。
パンちゃんの唇が触れた左頬は、そこだけがジクジクと熱を持って、ボクが眠りにつく頃にようやくその効力は治まった。
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