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6月のゲジゲジ
若き真野くんの悩み2

「人を好きになるのに男も女もないわよ。貴重な恋の内の一つでしょ。本気ならなおさらね。母さんだって素敵な女性に恋したことはあるわよ」


母はチラッと時計に目を配ると、再びリビングの席について妖怪から人間に成り変わろうと顔に手間をかけ始めた。


「でも、一般的にはさ……」


「まぁ、少数派ね。世間の常識がどうのって言うんなら、今の人達の恋路なんて説明のつかない事だらけよ。人の作り出した常識なんて、その時代に生きる人たちの価値観みたいなものよ。いつもどこか流行じみているしね」



まるで顔面に命を吹き込むかのように真剣な面持ちで眉を描きながら、母は言った。



「平安時代には、衆道は春画にも登場するほど一般的だったのよ。江戸時代には『陰間茶屋』なんて言って、それこそあんたくらいの若い男の子が男の人を相手にお客をとるお店が大流行したくらいなんだから。まぁ、明治維新が起こると、キリスト教が普及したのもあってか、そういう風習は無くなっちゃったわね〜」


「へぇ、詳しいね」


「昔読んだ本に書いてあったのよ」


出版社に勤める母は、昔から本だけは腐るほど読んでいて、知識だけは豊富だ。


男遊びも激しいが、好きな事にはトコトンのめり込む性格なので、ボクが生け花を好きなのと同様に母は本だけは絶対に手放さない。

おかげで母の部屋は、本棚に入りきらない大量の本が段ボールに押し込められて積み上げられている。


普段はケバケバしいおばさんだが、そんな本の虫からこんな風に知恵を授かることは多々ある。


「数少ない本物の恋は、大いに楽しみなさい」


化粧を終え、フル装備で女を造り上げた母はボクに片目をつぶって合図をすると、ブランド鞄を肩にかけ


「じゃあね」


と残して家を去った。



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あきゅろす。
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