6月のゲジゲジ
弟子2
みんなが一斉に帰り支度を整え、次々に教室を後にした。
ボクはとにかくこの場から離れようと手早く荷物をまとめ、襖に手をかけた。
(よ…よしっ!!勝った!!)
彼と再び顔を会わせ、いつ自分に気付かれるかという息詰まるプレッシャーの中、よくぞ耐え抜いた。よくやった!!偉いぞボク。……最も、変に緊張していたのはボクだけかもしれないけれど。
(さぁ!!もたもたせずに、ちゃっと帰ろう)
そう息巻いたけど、今日のボクはどこまでもついていなかった。
「ああ!!そうだわ、真野くん。パンちゃんと一緒に花器を運ぶの手伝って頂戴ね」
(なっ!!!!ナニ――!?)
「ちょ、ちょっと待っ……」
「よろしい、ですね!?」
(うっ……)
慌てて何か急な理由を繕おうとしたボクだったが、有無を言わせぬ威圧感に押し黙ってしまった。
「ああ、パンちゃん。この子は真野くんよ。仲良くね」
(仲良くどころか、ボクは万事休すですよヨネ子さん!!あぁ。どうか、無事に家に帰れますように……)
名指しで呼ばれて、とうとう逃げ場を無くしたボクは正面からパンちゃんに向き合った。
まさかこんなところで水をかけた制裁は下されないだろうけれど、ボクの乏しい脳内知識では不良とビジュアル系はご近所エリアに生息しているので、どうしても思考があらぬ方へと飛んでいく。
(鉄拳制裁!?カツアゲ!?……痛いのだけは勘弁して下さい)
「…ま…真野です。お会い出来て嬉しいです。…き…今日は大変勉強になりました」
ウロウロと目を泳がせながらボクが挨拶をすると、パンちゃんは少し俯きながら、先ほどみんなの前でしたのと同じように『どうも』とだけ応えた。
「それじゃあ、二人とも。頼みましたよ」
そう言うとヨネ子さんは床の間から姿を消した。
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