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第三の国
賭け2


指先にたっぷりと薬をすくって背中から尻にかけての大きな鞭傷をなぞった。


尻の割れ目まで行くと忘れかけてた後孔の痛みが激しく主張した。咄嗟の事にその場にうずくまる。



高砂との一件は誰にも話してない。



ただあの夜、たまたま着替えに戻ったあけびは深い皺を眉間に刻ませながら苦い顔で俺にこう告げた。


『お前、しばらく動き回るのはよせ』


にべもない口調だったから高砂との接触がバレたのかとギクリとした。


別にあけびに知られても、阿呆かお前。と罵られる程度なのかも知れない。だけど、俺としては源平の制止を振り払って部屋を飛び出した手前、自分が瀕死の目に遭わされた元凶にまた痛手を負わされましたなんて言えなかった。


高砂派から救ってくれたあけびには絶対に知られたくない。まだ礼だって言えてないのに。



『この間の風呂の一件で分かっただろ!?これだけ長くお前をかくまってると、変な噂も立つ。誰がいつやっかみや逆恨みに焚き付けられて暴挙に出てもおかしくないんだ。只でさえ今は監視たちが浮き足立ってるから、完治するまではウロチョロすんなよ』


ああ、邪魔くせぇ。言いながら長い裾を煩わしそうに膝で蹴ってあけびは腰紐に手をかける。


いつもの老緑の監視服ではなく樺色の長繻子に袖を通したあけびを見るのは初めてだった。


野性的な髪をひとつに纏め上げ、黒の高帽を被ったあけびは凛とした静かな迫力に包まれていて黙って見ているといつまでも目が固まりそうなので、どこの借りてきた猫だよとわざと軽くなじった。


触るのを躊躇いたいような類の装飾を机にほいほい放って、あけびは悪びれもせず格好いいだろ。と快活に笑った。




重陽樺と呼ばれるその装束は本来なら現職の和神高官しか着れない代物だ。ガキの頃から良く商船に潜り込んでいたせいで俺にはそんな知識ばかりついてるが、地方監視長になったあけびが今更着る理由は一つだろう。


『天主…様…来たんだろ!?』


パニールの土地を荒らした侵略者を様呼ばわりするのは口が曲がりそうな程に抵抗感があったが、今日現れた人物を確かめずにはいられない。



寝間着に落ち着いたあけびがそうだと頷いて寝台に足を突っ込む。



『姿は見てない……けど、すげえ歓声だったからそうなんだろうなって』


他にどう言ったものか。でもあなたにとって憎い存在だと教えてくれた源平の一言で瞬時に理解したんだ。




回想に浸っていると、再び痛みが体を貫いて俺は決して治療してくれと言う事の出来ないこの傷を何とかしようと手に残った化膿止めを眺めた。






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あきゅろす。
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