第三の国
もう一人の咎人7
「私は飲み干してしまいました。別の薬ですけどね。その代償がこれです」
そうして男は俺がよく見えるように更に腕を伸ばした。目を細める。別段変わったところはなさそうだ。だけど、男が俺の異変に気づいたように俺も男の違和感に気づいた。
「指が……」
不自然に曲がったまま固まっている。ピクリともしない。
「ええ。動きません」
「一本も?」
「残念ながら」
これでは判も捺せない。ははと乾いた笑いを浮かべながら、男はゆっくりと手を引っ込めた。
「貴方の代償はここです」
五本の使えない指を男は顔の方に持っていく。俺はのんびりとした男の動きにつられるように自分の手を動かした。
向かい合った独房の中で鏡のように同じ仕草をする。そして俺たち手は静かにある場所で止まった。
「耳です」
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