第三の国
人間扱い6
「そう噛みついてくるなよ。友達が心配してるぞ」
チェダーを見れば、俺の手を握って本当に不安そうにしていた。
「悪い……」
「ううん。落ちついた!?」
「あぁ」
そっと手を握り返す。
つい、いつも感情的になってしまう。
俺の悪い癖だ。
「どうやらリコッタの奴隷たちは、一番酷い仕打ちを受けてたみたいだな」
俺たちの様子を微笑ましいと言うように、あけびはニマニマと笑った。
「リコッタはって、他の地区だって大して変わらないだろう……あと、その変な笑顔をやめろ」
「いや、違う。パニールではここが一番大きな島だからな……監視たちの奴隷に対する風当たりも強くて規律も厳しい。……ぷっ。笑って悪かったよ。……お前たちがあんまりにも可愛くてな。しかし、お前。その気性なら今までに何度も拷問されたんじゃないのか!?」
「数え切れないよ」
答えたのはチェダーだった。
そのあまりに素早い切り返しに俺が膨れっ面をしていると、再びあけびが笑い出した。
「笑ってんじゃねえ!!いくぞ、チェダー」
俺は足元の砂を蹴り上げると、思いっきりあけびに引っかけた。
「俺はただ、奴隷だからってだけでお前たちを無理に虐げたくはないだけだ。同じ人間なんだからな」
その言葉に、広場に向かって足を進めていた俺もチェダーも立ち止まって振り返っていた。
『同じ人間なんだから』
監視にそんな目で見られたのは初めてだった。
「…………あんたは行かねぇのか!?」
中々歩き出そうとしないあけびに、俺は眉をひそめた。
「言ったろ!?俺は塔の監視長だって。塔はどっちだ!?」
「目の前のバカでかい建物が見えないのかよ!?」
「向かって右ですよ」
俺の代わりに、チェダーが丁寧に案内した。
「そうか。じゃあ、ちょっと覗いてくるかな。またな、二人とも」
ヒラヒラと手を振り、楽しそうに鼻唄交じりに馬の手綱を引く男を俺とチェダーは黙って見送った。
複雑な胸の内だったが、不思議と悪い気分じゃなかった。
気を抜けば俺までハミングをしそうだった。
「変な男だったな。監視のくせに……」
「うん。でも、ちょっと格好良かったね。身内から反感買うの分かってて俺たちにつくなんて、あんまり出来ることじゃないよ。それに……」
「……それに!?」
「見た目も、ちょっと格好良かった。ほんの、ちょっと」
前言撤回。
思いっきり胸くそ悪い野郎だ。
言ってみて恥ずかしそうに顔を赤らめているチェダーの頬を、俺はぎゅっとつねった。
「俺の方が格好良いだろう」
俺は親指で自分を指差すと、大きく胸を張った。
「ぷっ、何それ。ゴーダ、自意識過剰だよ」
チェダーはつねられた頬をさすりながら、ぶうたれた。
「うっせぇ!!いくぞ!!」
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