第三の国
番号制の夜伽2
「くっ…ひっひっ。それじゃあ番号を読み上げてくれ」
「「御意」」
広間に入ってきてから終始ご機嫌な高砂のその言葉を受けて、両脇に立つ監視たちが堰を切ったように話し出す。
「これから焼印番号を読み上げる!!番号を呼ばれたやつから広間の外に出ろ!!聞き逃したやつや逃げ出したやつは後日、吊し刑にされると思え!!」
「15番、26番、49番、63番、78番……」
高砂の右にいた監視は指示を出し、左側にいた監視は羊皮紙を取り出すと書き出された焼印番号を読み上げていく。
ゴーダと手を繋いだまま耳を澄ませて辺りを見回すと、最近新たに奴隷になった何人かの子供たちが、いそいそと自分の焼印番号を確認していた。
リコッタは、宮殿を建てるために各地から多くの奴隷が行き来しているので人が多い。他の地区では行われていなかった事だけに、中には顔に戸惑いの色を浮かべる奴隷もいた。
俺もゴーダもエメンタールもパルも……いや、パニールに住む13歳以上の人間は、敗戦時に男女問わず肩に烙印を押されている。
ただ、リコッタの監視たちは誰がどの焼印を押されたのかは把握していない。
烙印帳簿はリコッタの監視たちではなく、国側の管理となっているからだ。
リコッタに限らず各地の監視たちには、自分の監視下にある奴隷の番号だけが伝えられている。
当てる側も当てられる側も、誰に当たるのか分からない。
この不思議な高揚感がリコッタの監視たちのお気に召すところとなり、敗戦時から五年間。月に一度行われている。
では、焼印番号を呼ばれて連れ出された人たちはなにをするのかーー無論、監視たちの夜の相手だ。
次々に番号が呼ばれていくなかで奴隷たちの明暗がクッキリと分かれていく。
青くなって茫然とする男
肩をガックリと落とし、渋々広間の外に出る若い女性
番号は呼ばれても、自分の身に何が起こっているのか全く理解できていない奴隷に成り立ての若い子供たち。
顔に嫌だと書いてあるゴーダみたいな該当者も、もちろんいる。
俺の手を握るゴーダの手に力がこもる。
番号が近づいてきたのだ。
ゴーダは216番で俺がその次。
エメンタールは…………番号が呼ばれても自分が嫌なら相手を袖にして自ら狩りに出掛けるから論外。
「男色というわけではいが、別に男でも抱ける」
以前エメンタールに聞いたらそんな風に話していた。特定の相手は作らず、最近は監視長を助力する副長や補佐長たちと主に関係を築いているらしい。
ゴーダと俺とエメンタール。幼い頃から三人一緒にいるけれど、エメンタールの行動にはゴーダと二人でいつも度胆を抜かされる。
昼間に見せる優等生の演技だってそうだ。
あんな窮屈な芝居を、エメンタールはずっと続けている。
エメンタールの顔を見つめていたら、優しく微笑まれた。
(ちゃんとこんな顔もできるのにな……)
そう思っているとエメンタールが俺の頭を引き寄せて、唇を近づけられた。
(なっ…!!)
触れる寸前でゴーダが後ろから抱き締めるようにして俺の口を塞いだ。
「何してんだよオメェは!?」
「いや、だってチェダーがあまりにも熱い眼差しで見てくるから……」
飄々とエメンタールは答える。
「お前がしたかっただけだろうが!!盛ってんじゃねぇよ!!」
「……いや盛ってるとか、ゴーダにだけは言われたくねぇし」
「大体お前、友達に手は出さないんじゃねぇのかよ!?」
「あぁ。ゴーダは嫌だな。でもチェダーは綺麗だしな…うん。ゴーダいいか、よく聞きなさい。世の中には例外というものが……」
「チェダー。もうエメンタールにも近づくな」
「ゴーダだって邪な下心が丸出しだぞ!!よしっ!!チェダーここはひとつ俺と寝よう!!監視たちは嫌だけど、チェダーならいい!!」
「ええっ!?」
パルが名案とばかりに、歯に絹着せぬ直接的な物言いで誘う。
「なにがチェダーならいい!!だよ。エロガキが!!」
「まぁ。パルじゃあ、ちょっと役不足だよなぁ」
「何だよゴーダもエメンタールも!!二人して余裕ぶりやがって!!ちぇっ。」
パルは残念そうにシュンとした。
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