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第三の国
ゴーダの想い11

「源平!!死傷者は!?宮殿長は無事か!?」


良く通るあけびの声が部屋に響いた。それから、ガタガタと箱から何かを取り出す音が高砂の方からする。おそらく医療班だろう。



「一名死亡。もう一人も虫の息です。高砂様は、脇腹と胸部の刺し傷が深い。幸い心臓には達していませんが、出血量が多く今はまだ何とも……そこ。もっとしっかり押さえて!!」



「はいっ!!」



そんな周りのやり取りを、俺はどこか遠くから聞いているような感覚だった。自分の呼吸音がやけに大きく、心臓が破裂しそうなくらい脈打つのがわかる。



「……っ!!……ゴーダ……」



俺の名前を呼びながら苦し気に顔を歪めたエメンタール。そして、目の先にはぼんやりと映るチェダーの姿があった。




「…ル………ダー」



かすれてきって力の無い俺の言葉を拾おうと、エメンタールが俺の上半身を膝に抱いて耳を近づける。



「エ……タール……チェダー……たの……」



俺はチェダーのいる方を指差して、あいつを助けてくれと訴えた。エメンタールはすぐさま、源平と呼ばれた医師にチェダーを診てくれるよう頼んだ。



「大丈夫だ。この子に致命傷になるような傷は見当たらないよ。ただ……」



その言葉の先をエメンタールは小さく頷くことで応えた。それから、血に染まる俺の手を取ると力強く握った。



「チェダーは無事だ。大丈夫だから、後は俺に任せろ」



どこか決意を滲ませるようなエメンタールの頼もしさに、固まっていた全身の筋肉が弛緩していった。



「……ゴメ…ン…」



そんな顔をさせたかった訳じゃないんだ。


ついぞ見たことのない親友の切ない表情に、俺は瞼を腕で覆った。



「うわぁぁん。源平さぁぁん!!えっぐ……ひぐっ……たんか、担架持ってきまし……ヒッ!!」


遅れて到着したもじゃもじゃが、泣きながら部屋の異常さに息を詰めた。


「なにこれ……ゴーダ……エメンタール!?……なにこれ!?……何だよこれ!?」



混乱して悲痛な色を含むパルの問いに、俺たちは答えられずに口をつぐんだ。



「嘘だ……嘘だろ……チェダー!!!!」



チェダーの様子に気がついたパルが駆け出したと同時に、もじゃもじゃが二人分の担架を慌てて抱え直した。



「応急処置は済みました。さあ!!医療室へ運びましょう。もじゃもじゃ。泣いていないで、そこの発煙筒を消して、あなたも手伝いなさい」


源平はビービー泣き続けるもじゃもじゃを一喝すると、負傷者を担架に乗せた。



「くっ……ひひ……ひひっ」

担架に乗せられた高砂は俺の前まで来た時、さも愉快そうに笑った。



「高砂さん。あんた意識が……!?」



ギョロリと目をひんむいた高砂は、あけびを一瞥するとまた愉しそうに笑った。


意識が朦朧としているのは定まらない焦点で想像がつく。それでも、何かに執着するように高砂は渇いた笑いを絶やさない。



「くっ……ひひ。こ……これで……邪魔……は……いなく……る……」



歯を剥き出し、高砂は目を爛々と輝かせて狂乱していた。


「ふは……ふははははははっ!!!!!!!」



人を馬鹿にしただけのいつもの高砂とは違う空気に、若い医療監視やもじゃもじゃは青くなり、あけびやエメンタールまでが身構えた。


「行け」


あけびの命令で医療班が動き出す。夜の沈黙の中、遠くでする高砂の笑いだけがいやに耳に障った。




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あきゅろす。
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