第三の国
ゴーダの想い10
渾身の力を込めた剣が、真っ直ぐ高砂へと振り下ろされる。
むあっとした香の匂いと血生臭さに満たされた部屋で、俺は猛獣のようにギラギラとした目付きで高砂に食らいついた。
仰向けに倒れた高砂は抵抗もせずに、相変わらずにやにやと笑いながら下から俺を見上げていた。
叫びにならない唸り声を腹の底からにじませながら、一心に目の前の男を刺した。
一衝き目は心臓からは外れ、脇腹骨辺りをえぐる。初めて人の肉を裂いた感触が体じゅうを粟立たせた。
「うわぁぁぁぁ!!」
咆哮をあげながら俺は二度、三度と狙いを定める。
高砂の体から引き抜いた剣からは血液が噴き出し、返り血となって俺を濡らした。
ゴメン……チェダー。
きっとお前はこんな事、望まない。
それでも。
それでも、許せねぇよ。
お前をそんな風に傷つけたこいつを……
生かしてはおけねぇよ。
ゴメン。
ゴメン。
ゴメン……、チェダー。
心臓みがけて最後のひと衝きをしようとした時、辺りが白煙に包まれた。
一気に視界が曇り、部屋にはバタバタと数人が駆け込んでくる足音がした。気がついた時には剣が飛ばされ、誰かに勢い良く胸元を捕まれ高砂から引き剥がされた。
(あ……けび……!?)
金属音と共に剣が床に落ちた。わずかに見えた監視服と黒髪が、衝撃を与えた人間が誰なのかを物語る。
「ゴーダッ!!」
切羽詰まったエメンタールの声が飛ばされた俺の頭上からした。
「おい!!ゴーダ!!何だよこれ。何があったんだよ!?」
白煙の中、それでも漂う部屋の異様な空気が理解出来ないエメンタールは、激しく俺を揺さぶった。
「……ひどい」
誰かの呟きが耳に伝わる。立ち上がる煙で見え難いが、あけびが連れてきた監視の誰かだろう。
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