第三の国
ゴーダの想い9
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は剣の柄を真っ向から高砂に斬りかかった。
大きく斜めに斬り込んだ剣は鞘で受け止められ、逆方向からは高砂の体重が乗ったズシッと重い一振りが飛んでくる。
「くひひっ。避けないとお前もあの世行きだぞ!!ほらっ!?ほらっ!?どうした、ゴーダ!?息巻いた割には情けないなあ!?んっ!?ふははははっ」
「……チッ」
最初の一撃を体を捻って回避しようとしたが、避けきれずに服が切れた。
その間にも、調子に乗った高砂は連続で剣を振り下ろす。
「くっ…はっ!!……つっ!!」
腕にも腰にも響くような高砂の太刀は、気を引き締めていないと弾き飛ばされそうだった。
「くひひっ。所詮、お前は小国に生まれた奴隷だ。……ハア、ハア。身の程をわきまえろクズめ!!」
「そう言うお前は随分と苦しそうだな。最近は剣の鍛練なんて、ろくにしてないんじゃないのか!?」
あからさまに息が上がってきた相手の懐に踏み込んで一振りすると、首に巻いていた高砂のスカーフが裂けて宙に舞った。
俺はわずかに後ろに退いた高砂の腹を力いっぱい蹴り、その拍子に倒れ込んだヤツの腹に馬乗りになって跨がった。
視界の角で、目を瞑って横になるチェダーを捉えた。
変な匂いに頭はクラクラするが思考は妙に冷たく冴え、全神経が目の前の薄汚い男に注がれる。
「心底お前が嫌いで良かったよ……。心置きなく殺れるからな」
そうして俺は寝そべる高砂に跨がったまま、大きく振りかぶった。
後は、心臓めがけて突き刺すだけだ。
「くっ……ひひっ」
死ぬ直前だと言うのに、高砂はいつもの含み笑いをしていた。
「……何が可笑しい!?」
俺ではなく天井に焦点を合わせて笑う高砂。その度に腹の上に乗った俺も一緒に上下した。
「うまかった」
言葉の意味を解しかね、俺は密かに眉をしかめた。
「うまかったぞ」
高砂は再び同じ言葉を繰り返し、俺を見上げながら勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
「お前の親友はな!!」
高砂はギョロリと目をひん剥いてそう言い、血の飛び散る部屋で気が狂ったように高笑いをした。
その異常な高揚ぶりがやけに気味悪く、背筋が凍った。
それでも、これからする事を止めようとは思わなかった。
「死んで償え」
俺は脚や腹に力を込めて、血に染まる剣を振り下ろした。
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