第三の国
ゴーダの想い6
あの日、三人で見たホタルの景色を俺はずっと忘れない。
キラキラ輝いていて、眩しかった。
ホタルも、俺たちの未来も。
宝物だと。
ホタルを見つけて嬉しそうに笑ったチェダーを、三人で夢を誓ったあの瞬間を、宝物みたいだと俺は思ったんだ。
そして俺は今、林を抜けてベール川へ向かった時のように全力で走っている。
今度はホタルを見に行くためじゃない。手には網ではなく発煙筒を持って、ただ走る。
(チェダー。チェダー!!)
「ハァ、ハァ、ハァ……ンッ、ゴホッ!!エホッ!!」
広間を飛び出してから、もう随分と遠くまで探しに来た。自分が監視棟のどのあたりまで来たのかも、既にわからない。
辺りに人の気配はなく、俺は腰を折って膝に両手をついた。自分の肩が激しく上下に動くのを確認すると、額から流れた汗が頬を伝い床にいくつか垂れ落ちた。
勢い良く走り過ぎて、脳も肺も血液も酸素を求めていた。苦しかった。胸が締めつけられるように、痛かった。
チェダーが見つからない焦りと不安。そして何よりチェダーを一人にしたことに対する自分への深い後悔が、俺の中で蠢いていた。
(何で……何でチェダーを一人で行かせたんだ!!どうして気づけなかった!?高砂の狙いは、最初からチェダーだった!!あいつはチェダーに手を出すために、異例の夜伽を仕組んだんだ!!それなのに……それなのに、俺は!!)
悔やみ切れない気持ちを振り払うように、俺は部屋をひとつずつ見て回った。
(ここでもないのか!?)
そう感じた時、一番奥の部屋から微かな物音がした。
数センチ開けられた部屋の扉からは中の様子は伺えず、俺は廊下に灯された松明から一枝を掴むと、ゆっくりと一番奥の部屋へと足を進めた。
松明のオレンジがゆらゆらと顔を照らす。扉の前に来ると、部屋からは数人の気配が感じ取れた。ボソボソと話す声と、興奮したオスの荒い息。その中で、聞きなれた声が弱々しく俺の名を呟いた。
「……ダ……ゴー……ダ」
次の瞬間、俺は激しく扉を蹴破り部屋へと乱入した。
そして、自分の目を疑った。
この世で一番見たくない光景がそこにあった。
「くひひひひっ。チェダーちゃん。王子様が来てくれましたよ〜!?あぁ、可哀想に。気を失ってるかな!?こんな恥ずかしい格好で、私のをくわえこんだままだっていうのに。はしたない子だ。ひひひっ」
部屋の中央でうつ伏せになって頭を押さえつけられたチェダーは、裸に剥かれて両手を後ろで縛られ、気を失っていた。
広間で嗅いだよりも強烈な香の匂いが部屋中に充満している。
「随分と遅かったなあゴーダ!?そう思わんか、お前たち!?」
「「高砂様の仰る通りです」」
チェダーの体を蹂躙したまま話す高砂に、二人の崇拝者が声を揃えた。
人形のように動かないチェダーは全身を大量の汗と体液にまみれさせ、床には赤い鮮血が散っていた。
俺はそこまで歩いて行って屈むと、その血を指で丁寧に拭った。
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