第三の国
ゴーダの想い4
林を抜けてからは三人で競争をして、何度か人にもぶつかった。それでも負けたくなくて俺は必死に走っていたら、ベール川に着いた時にはクタクタだった。
俺だけじゃなく、チェダーもエメンタールも肩で息をしていた。
結局、林で俺の背中に乗っていたカブトムシは、ジャンケンに勝ったチェダーの虫かごで大人しくしている。
俺は川の淵まで行って水を口に含む。暗闇で川底は見えないが、山から流れてくるベール川の水は透きとおっていてとても美味しい。
「つめたいねぇ……でも、おいしい」
ゴクゴクと水を飲みながら、チェダーが火照った顔も洗っていた。
「あっちい。アホが急に走り出したからさらに暑い」
「なんだよ!!自分だって走ったくせに〜」
「うるさい」
川のせせらぎと夏の虫たちの鳴き声を聞きながら、三人で大の字になって寝転がった。
「ハァ。ゴーちゃん、本当に足早いよね」
「へへ〜ん。そうだろ!?そうだろ!?」
「お前は体力しか取り柄がないからな。悲しいことに」
「お前だって、銭勘定と剣くらいしか出来ないだろうが!!」
「女が落とせる」
「……フケツ」
「何だよチェダー!!お前の取り柄なんか草と木と虫じゃねえか。この間、お前のおばちゃん、およよって泣いてたぞ!?何でこんな変な子になったんだって!!」
「いいもん。ちゃんと役に立ってるもんね」
「……一体、何の役にだよ!?」
「僕は大人になったら植物博士になるんだ。リコッタだけじゃなくて、世界中の草や木を調べるんだ。」
「どうせ虫もついでに調べるんだろ!?」
「すごいねエッちゃん。何でわかったの!?」
「お前がそれだけで満足出来るはずがないもん。……でも何で植物博士なんだ!?」
「だってこの世には、まだまだ知られてない植物がたくさんあるんだよ!?植物は人間の傷を癒したりできるし……ゴーちゃんもよくケガしてアロエをちぎってるでしょ!?それに、エッちゃんのお母さんだって、今は治らない病気でも……いつかきっと良い薬が見つかるはずだもん」
チェダーは上半身だけを起こし、懸命に訴えた。
チェダーはエメンタールの母さんが大好きだ。美人で優しくて、彼女は女でひとつでエメンタールを育てた。時には男たちに交じって力仕事をし、俺とチェダーが遊びに行けば、いつも食べきれない程のごちそうを用意してくれた。
正直、生活は苦しかったと思う。それでも彼女はいつも気丈に振る舞い、俺たちに笑顔を見せてくれた。化粧なんてしていなくても、その笑顔はとても綺麗だった。
俺もチェダーも、彼女の飾らない性格が大好きだった。
ただ、彼女の体には誰も知らないような珍しい病魔が潜んでいたんだ。
チェダーの訴えを聞いたエメンタールがが起き上がり、チェダーの頭をよしよしと撫でた。
「こら!!待て、チェダー!!この間、三人で約束しただろう。15歳になったら軍に入ってリコッタを和神やカカ王国から守るんだって!!」
俺は必死にいつも通りに振る舞った。暗くなっちゃいけない。そう思ったから。
「じゃあ、軍に入ってから植物博士になる」
「よし!!」
「よしってお前……じゃあ俺は大人になったら、商人になるかな」
「うわっ!!つまんねえ」
「バカ言え!!ただの商人じゃねえぞ!!世界一の大商人だ!!」
「エッちゃん、お金持ちになるんだね。すごい」
「ゴーダ、お前は!?」
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