第三の国
見失った友2
『そこまでだ!!全員、大人しくしてもらおう』
聞き覚えのあるいけ好かない声が、この時ばかりは苛立ちを内に含んでいた。
塔長のあけびと、今日一緒に到着した一行が後に続いていた。
「何ということだ……うかつでしたね。あけび様」
広間に倒れる三百強の奴隷や監視たちを見て、険しい顔で監視が呟いた。
「ちっ……歓迎の宴なんて言って、自分はそれに乗じて途中で抜けてやがったか。高砂の野郎!!」
「おまけに、事態に気がついた俺たちの邪魔まで用意する周到さ。ヤツとはどこまでも馬が合いそうもないですね……」
「しかし、被害がこれ程までとは。それにこの香りは一体……」
「ああ、おそらくは催眠香の類だろうが他にも何か混じっている……くそっ、陵辱されている奴隷もいるじゃないか」
『まずは人命の救助が先だ。薬師、お前たちは負傷者の手当てを……残りの者は手分けして皆を広間から出せ!!』
「「「「 御意 」」」」
エポワスの監視たちは、あけびの号令で見事な団結力を持って各々の役割についた。
確かに、今日は風がない。吹くのを待ってたら倒れる人間が増えるばかりだ。
無駄のない命令に、俺たち三人は成す術もなく呆然と立ちつくしていた。
「……お前たちか。宮殿長の下監をボコボコにしたのは!?」
俺はあからさまに嫌な顔をした。ゴーダも何かあったらしく、あけびを見ては渋い顔をしていた。
「あっ!!エメンタールの耳をペロペロしてたやつだ」
あけびを指差しながらパルだけが明るく答えると、ゴーダは訳がわからないという顔をし、俺はパルの尻を一度だけ軽く蹴って圧力をかけた。
「おいおい……可哀想に。そうか、お前たち友達だったのか。ん!?あの綺麗な子は一緒じゃないのか!?」
あけびの言葉に、ハッとした。隣では、ゴーダがビクッと体を揺らした。
そうだ、チェダーがいない。
(チェダー……)
(チェダー、どこだ……!?)
「……何でいないんだよ、チェダー」
三人で広間を隅々まで探しても、その姿を捉えることは叶わなかった。
「……お、おかしいよ!!チェダーなら、扉を開けて監視たちをやっつけたら、絶対に誰かの元に来るはずだろ!?何かあったんだよ、きっと!!なあ、ゴーダ。エメンタール」
「クソがっ!!」
ゴーダの唸る声がする。
「あけび様。高砂と一部の上位監視たちの姿が見えませんね……」
「……おい、まさか!!」
俺の言わんとすることをゴーダとパルも直ぐに理解したようだった。
チェダーがいない理由が、今ここに高砂がいないのと関係しているのならーー
「最悪だっ!!」
吐き捨てるように呟いて、ゴーダは拳を壁に叩きつけた。
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