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第三の国
チェダーの嘆き9

早く空気を入れ替えなければ、俺たちも危ない。


その上、烙印番号の記録を取られるとなると時間との戦いだ。


幸い、広間には沢山の扉がある。手分けすれば何とかなるかも知れない。


「俺は正面、チェダーは左、エメンタールは右。」


「なあなあ、俺は!?」


「はあ!?なっ、パ、パル!!お前……無事だったのか!?」

「当たり前だろ。なあなあ、ゴーダ。俺も手伝う!!俺はどっちに行けばいい!?」


「じゃあ俺と一緒に来い!!」

「んぇぇ!?ゴーダとぉ!?」


「文句言うなら連れていかねぇぞ!?」


「やだ!!俺も行く!!」


広間には、早くも女の奇声や男の喘ぎ声が漏れはじめていた。


「みんな、急げよ!!」


「…………うん」


「おぉー!!」


「全員、這って行けよ!?大人数じゃ散れないんだ。くれぐれも気づかれるなよ!?」


最後にエメンタールがそう残して、俺たちはバラバラに散った。



苦しみ喚く奴隷たちの姿に、俺は先の戦争を思い出していた。


街は焼け崩れて灰になり、人々は家をなくし、家族を無くしてさ迷い歩く。


生まれた育った場所が、戦場になっていく。


島で優しくしてくれた大人たちは、次々と死んでいった。


まだ子供だった俺たちを置いて。





早く。



早く。



気持ちばかりが急くのに、広間にひしめく人の数で中々前には進めない。



「頼むよ……どいてくれ……頼むから……」




一人でも多く。




一人でも多く、助けたいんだ。



息苦しさに涙が滲む。


やっと右の扉にたどり着いた時には大きく息を吐き出していた。


(やった!!これで、みんなーー)







「おやおや、悪い子がいるなあ。くひっひっ」



振り返るとそこには高砂が立っていた。



「あそこにも、悪あがきをする小僧がいるなあ。んっ!?」

エメンタールを見ながら高砂は俺を試すように話かける。


這っていた俺は、扉を背にしてうずくまった。



(ーーなんで、高砂がここに!?)



「ダメじゃないか。一人になっちゃ。悪いオジサンに食べられちゃうよ」



俺と同じ目線まで屈み込んだ高砂は今日一番の、歪んだ笑顔を見せた。




「探していたよ。いい子だね。さあ、私とおいで」



鼻に強烈な香りを感じた。


高砂に首を固定され、逆の手で顔に布をあてがわれた。


俺は布を引き剥がそう懸命に爪を立てるが、高砂の腕がそれを阻止する。



日中の労働、そしてここへきての突然の伽宣言。



体力も気力も限界だった。


そして俺は、崩れ落ちるようにして意識を手放した。






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