第三の国
チェダーの嘆き5
夕食時。
やっとの思いで1日を終え、広間に集まった男たちは一様に疲れ切った顔をしていた。
ただその中でも、宮殿に属する奴隷たちには一段と濃い疲労の色が伺えた。口数も少なく、みんな酷使した体を引きずっている。出血をしている者も十や二十では済まなかった。
そんな目を疑うほど疲労困憊した宮殿奴隷たちの様子に、塔奴隷たちは肝を潰していた。
「どうしたんだよ!?なあ!?何があったんだよ!?」
広間に入ると同時に、待ちきれなかったのか食事を手にしたパルが俺とゴーダに聞いた。
「みんなヒデェ顔してるぞ!?……チェダーもゴーダも」
俺たちを覗き見るパルの顔は強ばっていた。エメンタールは俺たちに何も聞かず、ただ周りに視線を飛ばして険しい表情をしていた。
食事を手にして四人で床に座ると、ゴーダがパルとエメンタールに今日の出来事を話して聞かせていた。
日中、外は熱した鉄板を敷いたような暑さだった。
熱湯をかけられなくても長時間そんな気温の下にいれば日が落ちる頃には肌はヒリヒリと赤く焼けて熱を持つ。
あれから俺たちは重い鉄球つきの足枷をつけられながら、それでもいつも通りの作業効率を高砂に求められた。
打たれるのはいつもの鞭ではなく、仕置き用の『飾り棒』。木で作られているけれど、形が特殊なのだ。棒は真っ直ぐ滑らかに削られているのではなく、鋭利な刺々しい角をいくつも持ったいびつな形をしている。
近距離で打たれるので体重をかけられる上に刺の部分がいくつも体に食い込むので、一度打たれただけで信じられない痛みを体に受ける。
それを昼過ぎからずっと続けられていたのだ。
俺たちはその後一度の休憩もなしにひたすら耐えた。
日が暮れる頃には、心も体も悲鳴を上げていた。
やっとの思いでこの時間を迎えたが、いつも食べるパンとスープにはなかなか手がつけられなかった。
眠い……。
食べるより、横になりたい。
「おい、チェダー。大丈夫か!?」
気づけば俺はゴーダに寄りかかっていた。
慌てて離れようと体を動かすが言うことを聞いてくれない。
「いいよ。しばらく寄っ掛かってろ」
「うん……ごめん」
「痛そうだな顔……後で冷やそう」
俺はあまり日焼けをしない。流石に夏のこの時期は多少焼けるが、冬を迎える頃にはいつも元の白さに戻ってしまう。
強い日差しを浴びても、俺の肌は赤くなって体内に熱を籠らせるだけなので正直真夏は辛い。
「チェダー、大丈夫か!?」
パルが俺を覗き込む。
そういえば昼に出逢ったもじゃもじゃ頭の監視とパルって、同じ年くらいだよな。
(あの子……あれから大丈夫だったかな)
気を抜けば意識が遠のきそうだ。
頬に触れるゴーダの脈と体温が、心地いい。
「はい。チェダー、あ〜ん。」
固いパンをスープに少しだけ浸し、エメンタールが食べやすくして口まで持ってきてくれる。
断るのも億劫で、俺は黙って口を開いた。
「ありがとう……大丈夫。ちゃんと後で食べるよ」
とても胃は受け付けてくれそうにないけれど。
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