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第三の国
チェダーの嘆き2

食事を終え俺たちは宮殿へと戻った。


そこにあけびの姿はなかった。


昼近くまでは皆が黙々と作業をし、ゴーダも珍しく大人しかった。



いや、大人しいと言うよりはむしろブツブツと文句を言っていた。



「俺の方が格好良いのに……何だよ。ちょっと渋くて男くさいからってさ」



(ね……根に持っている。)


触らぬゴーダに祟りなし。


俺はこの時ばかりは極力ゴーダから離れて作業を続けた。




あけびが現れてから二時間ほどが経過した頃、再び門番たちの叫び声が聞こえた。



「止まれ〜止まれ〜止まれ〜!!」



地面が揺れて、砂煙が上がる。



再び馬の蹄の音が聞こえたが、今度はあけびが来たときの比ではなかった。



遠くから一団が駆けてくる。



「またか!?今度こそ止めるぞ!!」



「「「オォォ!!」」」



門番たちも、先ほどあけびを止められなかったために躍起になっている。


宮殿周りは再び騒がしくなった。監視たちも奴隷も、手を休めてその様子を見守る。



(一……二、三、四……)



俺は目を閉じて耳を澄ませた。


(軽く十頭はいる……門番だけじゃ止められない)



現れたのは監視服を身に纏った男たちだった。だが、あけびが現れた時のように爽快な面持ちではなかった。



「貴様等!!ここを何処だと……ゔっ」


「何だ!!どうした!?……ふぐっ!!臭い!!」


「怯むな!!貴様等、どこの監視だ!!ええい!!何だこの匂いは!?」



確かに男たちからは異様な臭気が漂っていた。



正確には男たちが持っているものからだ。



対面する門番たちは鼻を押さえている。それは奴隷たちも他の監視も同じだった。



「……鼻がもげそうだ」


この騒ぎに機嫌の悪さが吹き飛んだのか、ゴーダが顔を歪めこっそりと話しかけてきた。


「嗅いだことのない臭いだけど……監視たちが持っているあの袋からかな!?」



リコッタに到着した男たちは、同じ袋を提げていた。



「あけび様はどこだ!?ここに現れただろう!?」


現れた監視の一人が怒鳴りつけるように門番に問い質した。その必死さに、門番たちも一瞬たじろぐ。



「塔長お付きのエポワスの監視か……あけび様なら先ほどお見えになられ……」


「どこにいる!?」



寝ていないのか、目が血走っている。



「えっ……!?おそらくは塔の方だと……」



「あんちくしょ〜。勝手に先に行きやがって!!もう許さねえ」


その言葉使いは、とても上監に対するものとは思えなかった。


「全く困ったものだ。あの方にはもう少しご自分のお立場というものを……教えて差し上げねば」



先の監視に続いて、こちらは丁寧な言葉ぶりだが語尾が明らかに怒っている。



他の監視たちも口々にあけびを罵った。



「我々はあけび様と共にエポワスから参った。高名なリコッタの監視諸君に挨拶をしたいのも山々だが、先を急ぐため失礼する。……ああ、それとこれはエポワス名産の『シニガン』だ。大丈夫!!保存食だから暑さで腐ることはない。臭いはアレだが、酒のつまみに良い。リコッタの諸君で食してくれ」



一人が門番に袋を手渡すと、エポワスの監視たちはそれに倣って近くにいた監視たちに次々と袋を手渡した。


「みんな、行くぞ!!」


先頭に立った男が指揮をとると、後の者が続く。



「まっ、待て!!」


直属の上監と同様にその行動は大胆なもので、男たちは門番たちの制止を振り切って塔へと向かった。


「臭ぇ……本当に食い物かコレは!?」


「食ったらたちどころに息の根が止まりそうだな……」


結局、シニガンが何かは判らず仕舞い。


ただ、辺りには熱気も手伝ってか強烈な臭いが立ち込めていた。



「エポワスの監視は皆ああなのか……!?」



呆れたように門番の一人が呟くのを俺は聞き逃さなかった。




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あきゅろす。
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