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第三の国
チェダーの嘆き

side チェダー


あけびの計らいのお陰で、やっと息がつけた。



あの炎天下で食事も摂らずに労働に徹していては、いつ自分が倒れてもおかしくなかった。



俺は喉を鳴らして水を飲んだ。



ぐったりとうずくまる男にも水を取ってきて飲ませれば、彼も勢いよく渇きを潤していた。



それから俺はゆっくりと辺りを見渡した。



脱水症を引き起こしていた者も、火傷を負った者も一先ずは無事命を取りとめたようでほっとした。



食事の準備を本来いる給仕係の監視ではなく、あけびの命により宮殿の監視たちがしたために、見張られながらの食事となった。



「チッ……なぜ俺たちがクズたちの食事の世話をしなきゃならないんだ。あの方は塔長だろ!?高砂様がいない間に勝手に宮殿の監視たちに幅をきかせてもらってもな」



「クソッ。ここは高砂様が管理されるリコッタだぞ!!……ポッと出の田舎監視長が偉そうにでしゃばりやがって!!」



「私はまだ彼を監視長とは認めていないよ。だが、この判断は妥当だろう。あのまま奴隷たちを働かせていても、バタバタと倒れる者が後を絶たないのは目に見えていた。一体どれ程の器か……お手並み拝見だな」



「そう言えばこの五年。各奴隷地区で奴隷たちによる暴動まがいの騒ぎが何度か起きているが、エポワスだけは一度もないと聞く。」


「本当か!?リコッタでも二年前にロックフォールが先頭を切って一度騒ぎが起きたよな!?」


「ああ。あれは結局失敗に終わったけどな」


「当然だ。だがエポワスは、ここ1〜2年は平和そのものだったとか。それを管理されていたのがあけび様だ」


「やるな!!凄いじゃないか!?」


「ああ。確かあけび様……28だったか!?あの若さでリコッタの塔長に抜擢されたんだ。腕も相当立つんだろうな」


「正直、俺はここ最近の高砂様のやり方は行き過ぎていると思っていたぜ。安月給でこき使われて……奴隷たちに鞭を打ちながら、俺まで奴隷に成り下がったような気分だったぜ。俺はいいと思うけどな、あけび塔長」

「……だが、あけび様はいくら何でもこいつらを優遇しすぎだ。奴隷だぞ!?」


広間にいる監視たちの話題は、もっぱらあけびに関するものばかりだ。



高砂を擁護する者。


あけびに興味を示すもの。

「そこ!!さっさと喰え!!」


中には事の次第についていけず、八つ当たりのように奴隷たちに鞭を振るう監視もいる。





居心地が悪い。


夜伽の時のようなピリピリと張りつめた空気が広間を覆っていた。


奴隷たちにしてみれば話の分かる監視でも、一部の監視たちにしてみれば、あけびはやたらと奴隷の肩を持つ面倒な上監なのだ。





波乱の予感がする。




あけびと高砂。



一方は和神の繁栄と天主の支えとなるために、奴隷を家畜と同等に扱う。



対してもう一方は、おそらく志は同じくしても、奴隷たちも人間なのだと手厚く管理する。



水と油のような性質の二人だ。協力どころか、下手すればリコッタの暴動にも繋がりかねない。



(また、誰かが傷つくのか……!?)



戦争が終わっても、人々の争いは終わることがない。



人の争いは……どこまでも、どこまでも続くんだ。









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