第三の国
不機嫌な高砂3
「待て!!お前ら!!」
止めようとした時には既に手遅れだった。
高砂を始めとする監視たちは手にした樽を一斉にひっくり返し、水を求めた奴隷たちに熱湯を浴びせた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
「熱いぃぃぃ!!熱い!!誰か、誰か助けてくれぇ!!」
「ぐあぁぁぁぁ!!焼ける……身体が焼けるぅぅ!!」
阿鼻叫喚を轟かせる男たちを、俺やチェダーを含め他の奴隷たちはただ立ち尽くすしか出来なかった。
まるで無限地獄のようだった。
赤く腫れ上がった、ただれた肌で地面をのたうち回る奴隷たち。
監視たちはさも可笑しそうにその様を見届けて嘲笑っていた。
気の弱い若い奴隷が青くなって嘔吐し、余った湯を浴びせられて悲鳴を上げた。
『ふ…ふははははっ。くっひひ……お前らなぞ、干からびて死ぬがいい!!!!』
高砂は、苦しみ喘ぐ奴隷たちに向かって残酷な言葉を吐き捨てた。
「テメェ…ふざけんなよ」
俺の呟きが聞こえたのか、高砂はチラリとこちらを見て口の端を上げた。
「ハッ!!興ざめだ。どこまでも使えぬクズどもめ!!……若い奴隷を呼べ。自室に戻る。」
「畏まりました」
ありったけ奴隷たちに八つ当たりをした高砂は、下監にそう告げると踵を返した。
「ゴーダ!!」
後を追おうとした俺をチェダーが引きとめた。
怒りに震える俺の手を握りながら、チェダーが『行くな』と強い眼差しで訴えている。
「放せ、チェダー」
「何考えてるんだよ!!今行っても同じ目に遭うだけだぞ!!」
「いいから放せ!!」
俺は乱暴にチェダーの手を振り払うと、高砂に向かって歩き出した。
尚も必死に俺を止めようとするチェダーと揉み合っていると、遠くから物凄い勢いで馬が駆けてくる音がした。
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