第三の国
新たなる監視長7
「さあ、仕事するか……ああ、そうだ。」
あけびは覆い被さるように俺に近づくと、俺の耳元で低く囁いた。
「今度は俺にも笑ってみせてくれ」
艶のある声に、肩が数ミリ跳ねた。あけびはそんな些細な俺の動揺も見逃さない。
「い、いきなり何を仰るんですですか……」
さっさと解放しろ。
そう叫びたかった。
「さっきの二人は友人か!?……えらく可愛く微笑んでいたんで、俺にも見せて欲しくなったんだよ」
あけびはそう言うと、尖った舌先で素早く俺の耳の中を舐めた。
(―――こいつ!!!)
「……あの!?」
爆発寸前の感情を必死に堪え、平静を装って問い質した。
「なんだ、耳弱いのか!?……いいか、約束だ。近いうちにお前の笑顔を見せてくれ。じゃなければ、お前の所まで夜這いをかけに行く」
野性的な風貌からは考えられない程に、口から出る台詞は軽い。
(こいつ……いつかブッ飛ばすっ!!)
余りの身勝手さに腹の中が真っ黒に染まった。
いつ拳が飛んでもおかしくない中、背後から勢いよく駆けてきた少年が、あけびの腰にしがみついた。
「がん゙じぢょぉぉぉ!!おうっ……えうっ…ひぐっ!!」
「おう!!もじゃもじゃ。お前今までどこに居たんだ!?」
「み゙なざんから、お、遅れて到着じだんでず!!お゙れトロイがら……でも、あ゙げびさん先に行っぢゃうじ……あうっ…えぐっ…」
(コレ……さっきチェダーの隣にいたヤツだよな!?)
涙、鼻水、よだれ。
顔面から流せるだけの体液を撒き散らしながら、少年はむせび泣く。
「あぁ、悪かったよ。直に宮殿も塔も完成だから、早く着きたくてな。泣くな泣くな。お前も一端の監視になったんだろ!?だったら、いつまでも甘えてんじゃねぇぞ!!」
「ゔっ………あ゙い」
少年はゴシゴシと、涙を袖で拭った。
「ところで、あけびさん」
「なんだ!?」
「……こちらは!?」
少年は俺の方を見ると、キョトンとした顔で聞いた。
(ゲッ……)
「ああ、今度夜這いをかけに行く子だ」
(こ、このアホ……)
「うぉぉぉ!!お、ぉ、ぉ、大人!!大人の世界です」
「だろ!?お前にはまだ早い」
そう言ってあけびは、もじゃもじゃの頭を優しく撫でた。
「あ、あの、初めまして。ぼ、僕、あだ名はもじゃもじゃです。みんなそう呼びます!!宜しくお願いします」
もじゃもじゃは、礼儀正しく深々と頭を下げた。
奴隷の俺に対して。
(なめてんのか!?)
「疑うな。こういうヤツなんだ。ただ、素直なだけだ」
あけびは俺の心を見透かしたように答えた。
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