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第三の国
エポワスから来た男の子4

「……それにしても、本当にすげぇ傷だな。高砂の野郎、よっぽどお前のした事が気に食わなかったんだな……一体何をしたんだよ!?」


横になって、エメンタールがゴーダの顔の傷を見ながらしみじみと囁く。


「二階で作業してたら、水樽に足を引っ掛けてハデに倒しちまったんだよ。そうしたら、その時ちょうど下にいた高砂のハゲが見事に頭から水をひっかぶりやがって……大体あんな邪魔なところにいるあいつが悪いんだよ!!……それから、ずぶ濡れになったヤツのなけなしの前髪がワカメみたいにデコに張り付いて、他の監視たちも奴隷もみんながクスクス笑うもんだから、あいつは茹でタコみたいになって怒ってやがった!!へっ。ざまぁみろ!!」



「「ぷっ」」


ワカメ頭で茹でタコになった高砂を想像して、俺とエメンタールはしばらくの間くつくつと笑った。


「……あと、ブリの時のこともブチブチ言われた。でも俺はあの時のことは、後悔なんてしてねぇぞ。本当の事を言ってやったんだ!!あんなの間違ってるって!!ブリのためにもな」


天井をジッと見つめながら、ゴーダがそう答える。


「わかってるよバカ」


そう。


わかってる。


きっとあの場にいた人間はみんな。



「ゴーダ!!エメンタール!!いい加減にしやがれ!!お前等ちょっとこっちに来い!!ボソボソ話しやがって!!」


「「げぇ!?」」


地獄耳のロックフォールに呼びつけられて、互いに責任をなすりつけ合いながらも二人は起き上がって渋々歩き出す。



「「ぐあぁぁ!!臭ぇ!!」」



足の匂いを嗅がされて、疼くまって苦しむゴーダとエメンタールの悲鳴を聞きながら、俺は目を閉じた。


さすがに観念したゴーダとエメンタールも、戻って来ると今度こそ大人しく床についた。






騒ぎ立てる人間がいなくなってしまえば、静かな夜だった。



いつもは煩しい鈴虫も、その日は鳴き疲れたのか、木の葉が舞い散る音さえ聞こえてきそうな程だった。





ふと、俺はある異変に気が付いて隣を見た。




毎晩のように聞こえていた啜り泣きが、その日はピタリと止んでいた。








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