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第三の国
エポワスから来た男の子3

それからのブリは少しずつ様子がおかしくなっていった。


俺たちが話かけてもあまり元気がなく、どこか遠いところをボンヤリと眺めている機会が増えた。


日に二度の食事にはほとんど手をつけず、朝から晩まで働き通す。


当然、小さなブリの体は日を追うごとに痩せ細っていった。


それでも、毎晩のすすり泣きだけは変わらずにずっと続いていた。



今なら分かる。



13歳の子供が背負うにはこの生活は余りにも酷すぎた。



ブリがリコッタに来てから半年が過ぎたある秋の夜長、俺とエメンタールは横になりながら、特別室に呼び出されたままのゴーダの帰りを待っていた。


ブリはもう眠ってしまったらしく、起こさないように注意しながら俺とエメンタールはヒソヒソと話をした。



「遅いね……ゴーダ大丈夫かな!?」


「大丈夫だろ。いつもみたいにギャーギャー文句言いながら帰ってくるって!!」


「でも…特別室だよ!?あそこって、何か特別な悪さをしたりしない限り呼び出されないはずでしょ!?……だから名前も特別室だし。俺ちょっと心配だな……」


「まぁまぁ。見てろって」


不安がよぎる俺とは対照的に、心配無用とエメンタールはしれっと答える。




ズカズカと誰かが大部屋に近づいてくる足音がした。




「なんだよあのハゲ!!人のこと目の敵にしやがって!!中途半端に禿げ上がってんじゃねぇぞ!!どうせなら丸ハゲにしろってんだ!!あのハゲハゲハゲ!!」


特別室から戻ってきたゴーダが、大部屋の戸を開けて勢いよく入ってきた。


身体中にみみず腫れや痣を作っているにも関わらず、ゴーダはまだ悪態をつく元気があるらしい。


そこがゴーダの凄い所だと俺はつくづく思う。


普通の子供ならこんな拷問まがいの仕打ちを受けたら心がポッキリと折れて大人しく監視に従うのだけれど、ゴーダはどれだけ打ちのめされても何度でも向かっていく。


だから人一倍その跳ね返りも大きい。



「酷い傷…大丈夫なの!?」


体や顔につけられた傷を見て、俺は改めて不安にかられた。


「こんなの平気だって!!あんなハゲの拷問なんか俺にはこれっっっぽっちも効かねぇよ!!」


「ゴーダ、指くっついちゃってるよ」


怒り心頭のゴーダが作ったこれっぽっちの指の隙間は、本人の強い意向により完全に埋められていた。


「いいんだよこれで!!ハゲにはこれで十分だ!!」


そんな息巻くゴーダの様子に、エメンタールの頬が得意気に緩む。


「なっ!?言っただろ!?文句言いながら帰ってくるって!!」


「うん…本当だね。何か心配して損した気分だよ。」


「な…何だよお前らコソコソして!!俺にも教えろよ!!」


仲間外れが嫌いなゴーダは口を尖らせてそう訴えた。


「べっつにー!!俺とチェダーだけのひみつ。なぁ!?チェダー!?」


エメンタールに肩を強く引き寄せられると、そのまま左右に揺さぶられる。


「…ぷっ!!うん。そうだね」

ゴーダの顔が情けなく歪むのを見て、俺は思わず笑ってしまった。




「何だよ!!俺にも教えろよー!!二人のバカ!!大バカ野郎!!」


「だだっ子かよお前は……ったく」


「シーッ。ゴーダ!!ブリは寝てるんだから静かにね」


「うっ!!そうなのか!?ゴメン」


ブリが寝ている旨を話すと、ゴーダは慌てて手で口を覆った。


「それに他の人にも迷惑が……うっ……」


「げっ!!」


「おいゴーダ、お前のせいだぞ……」


俺たちが気が付いた時にはもう後の祭りで、散々喧しく騒いでいたせいで、眠りで床についていた他の奴隷たちが次々に起き出してしまった。




「えぇい!!やかましい!!寝れねぇだろうが!!ゴーダ!!テメェ何で監視室で灸を据えられて来てさらに元気よく喚いてやがる!!!ガキはさっさと寝ねぇか!!」



この大部屋にいる奴隷たちのリーダーであるロックフォールの怒鳴り声が、激しく耳をつんざいた。


ロックフォールはがっしりとした体つきの熊みたいな男で、口が悪く、足は臭い。

性格は豪快そのもので、強面の顔と相まってか、初対面の人は大抵が逃げ腰になる。ブリも最初の頃は随分と怖がっていた。


それでも面倒見がよく、彼を慕う多くの奴隷たちを一つにまとめあげていることから、ロックフォールは監視たちからも一目置かれる存在だ。


今更ながら、ブリが夜伽に選ばれた時にこの人があの場にいてくれたなら、随分と状況は違っていただろうと思う。


寝床は一緒だけど、残念ながら食事場所が俺たちとは違うのだ。


名指しで叱られたゴーダだったが、そんなことはなんの苦にもなっていないようだ。


「でもよぉ!!ロックフォール!!高砂のハゲちょろりんのクソ野郎が!!」


「問答無用!!チェダー、エメンタール!!オメェラもさっさと寝ねぇか!!……それともグッスリと眠れるように、腹に一発仕込んでやろうか!?」


野太い声に鋼の体を持つ40代の大男の存在は、13歳の俺たちにとっては、脅威以外のなにものでもなかった。


「「お…おやすみなさい!!」」

物分かりの早い俺とエメンタールは即座にロックフォールに挨拶を交わすと、まだ渋るゴーダの上から無理やりシーツを掛けて眠りにつかせた。






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あきゅろす。
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