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第三の国
エポワスから来た男の子2

ブリがリコッタに来てから2ヶ月。


月恒例の番号制夜伽でついに犠牲者が出た。



「385番」


誰も立ち上がらなかった。

「どうした!?さっさと立ち上がれ!!誰だ385番!?」


キョロキョロと辺りを見回す俺たち三人の間で、ブリが小さく震えていた。


「おい!!ブリ!!どうしたんだよ!?」


ゴーダが心配そうに問いかけると、その隣でエメンタールが事態を冷静に察知した。


「……お前、まさかっ!!」


その言葉を遮るように、ブリがふらふらと立ち上がる。


「貴様!!何故さっさと立たなかった!!」


監視役の鞭がしなる。


打たれた痛みとは別に、ブリの小さな体を絶え間なく恐怖が襲っているようだった。


「くっ!!す…すみません…すみませんでした」


ブリは震えた声を上げると、こちらを振り返らずに広間の外に歩いていった。



「ちょっと待てよブリ!!ふざけんな!!こんなの間違ってる!!」


「おいゴーダ!!」


突然の激高にエメンタールが止めに入るのも構わず、ゴーダは監視たちを順繰りに睨み付けながら大声で罵った。


「うるせぇ!!離せっ!!何でブリがお前らみたいな変態の相手をしなくちゃいけないんだよ!!冗談じゃねぇ!!お前ら腐ってるよ!!」


「ゴーダ……」


聞こえるか聞こえないか程のブリの声が、静まりかえった広間の中に溶けて消えた。


今度は俯いて顔を背けている大人の奴隷たちに向き直ると、ゴーダは酷い剣幕でまくし立てる。


「だいたい!!お前らもお前らだっ!!何で仲間が変態の餌食にされるのを目を伏せて黙って見てるんだよ!!お前らも腐ってるよ!!」


「黙れ!!クソガキ!!」


一番近くにいた監視がこれでもかというほどに高く鞭を振り上げて、何度も何度もゴーダを叩いた。



「「ゴーダ!!」」



俺とエメンタールはゴーダを守るようにして上から被さった。


「何やってんだよお前……こんなところで歯向かって!!いつかは誰かがこうなるって……わかってた事だろ!?」


俺の上に被さったエメンタールが俺の下にいるゴーダを咎める。



「なんでだよ。何でブリなんだよ……」


ゴーダの背中が微かに震えていた。


「何で俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだよ……」



誰を責めるわけでもない、ただ小さく呟いたゴーダの本音が聞こえたのは俺とエメンタールだけだろう。


鞭打たれるよりも、ゴーダの言葉の方がよっぽど胸に痛かった。三人で疼くまっていると


「くっ……ひひっ。なんだゴーダ。こいつはお前の友達か!?そうかそうか」


事態を掌握した高砂の楽しそうな声がした。ハッとして俺たちは顔を上げる。


「ブリというのか。何とも愛嬌があるな!!今日は私がたっぷりと可愛がってあげよう!?んっ!?」


ブリの頬に触れながら、高砂は口元に余裕の笑みを浮かべた。


「ふざけんな!!ブリに触るな!!この変態っ!!」


「パルは俺たちと同じまだ子供なんです!!止めて下さい!!」



「口を慎めぇぇ!!!!!




空気がビリビリと震えるのを頬に感じた。


俺やゴーダの必死の訴えを、鼓膜が破れんばかりの大声で高砂は跳ね返した。


「お前たち、一体誰に口をきいている!?んっ!?私はこのリコッタの補佐長だぞ!!!!」


瞳孔が開いたその目には、憎しみと蔑みの色がありありと映し出されていた。


荒い呼吸で剥き出しになった高砂の殺意は、そのまま俺とゴーダに向けられた。


「ふぐっ!!」


まずはゴーダの腹に一蹴。

「奴隷の分際で厚かましい!!」


「がはっ!!」


続いて俺の顔。間髪いれずにゴーダの悲鳴が聞こえてきた。


「あぁぁっっ!!!」


ダンッ!!と床が軋むほどの強さでゴーダの股関を踵で踏みつけると、今度は体重をかけてグリグリと擦るように足を左右に動かした。


「うぁぁぁ!!」


「ひっひっ。何だ!?ココへの刺激は初めてか!?……それとも踏まれて感じているのか!?ひひっ」


「あぁぁっ!!」


「止め……くっ!!離せ!!!!」

悶絶するゴーダを助けようと止めに入ったところで、俺は後ろから来た別の監視に羽交い締めにされて動きを止められてしまった。


「……くひっひっひっひ。いいか良く訊け奴隷ども!!」

高砂は広間全体に聞こえるように声を張ると、先を続けた。


「お前たち奴隷に大人も子供も一切関係ない!!!!子供や女だというだけで容赦をして貰えるだなんて思うなよ!?……くっひっひ」


この場にいる全員にそう忠告すると、高砂はブリの肩を抱いて歩を進めた。



「待ってください!!」


「そいつ……ブリはこのところ風邪気味なんです。今日はメンバーからは外してもらえませんか!?万が一、移ったら大変ですし……お願いします」


情けの通じる相手じゃないことは百も承知だろう。


それでもエメンタールは最後の賭けとばかりに額を地面に擦り付けて頼み込んだ。


体調不良ならば……ブリを助けることが出来るかもしれない。そんな淡い願いを込めて。



「くっひっひっ。それならお前らの中の誰かが代わりになるか!?どうだ!?んっ!?」




(((――――ッ!!!!!)))


俺たちは三人とも押し黙ってしまった。


ここで俺が名乗り出ればブリは助かるんだ!!でもそうしたら、俺は高砂に抱かれなきゃい!!


そんなのは嫌だ!!


でもこのままじゃ……


答えの出ない葛藤を各々が自分の中で繰り広げていた。


「なんだぁ!?友達のわりには随分と軽薄な友情じゃないか!?んっ!?誰も変わってはやらんのか!?お前たちは結局、自分がイチバン可愛いんじゃないか!?えっ!?違うか!?ひゃひゃひゃ」


俺たちは誰もその答えを返せなかった。


静かな時が辺りを包む。


そんな中、沈黙を破ったのはブリだった。



「大丈夫です!!俺がしっかりと務めを果たしてみせます!!」


額に脂汗を光らせながらブリがそう言うと、笑顔で高砂の腕をとった。



「お前たち奴隷は死にたくなかったら、賢く生きることだな!!……今のお前たちの選択は随分と賢いんじゃないか!?っひゃっひゃひゃ」


そう捨て台詞を残し、高笑いをしながら高砂はブリを連れて去っていった。


広間を出る直前、最後に少しだけ振り返ったブリの口許が何かを訴えるように動いたけれど俺には分からなかった。




それから俺は不甲斐ない自分を責めた。


(身代わりになれない俺は友だちを見捨てたも同然だ)


多分それは、隣で黙り込んだゴーダとエメンタールも同じことで……。



俺たちは黙って広間を出ると、それからはお互い一言もしゃべらずに眠りについた。


目を閉じても一向に眠れず、俺は横になったまま外から聞こえる足音にずっと耳を澄ませていた。




ブリが大部屋に帰ってきたのはその日の明け方近くだった。


静かにシーツの中にくるまると、隣で休むブリからは声を噛み殺してすすり泣く音がした。








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あきゅろす。
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