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第三の国
狩り※

side エメンタール


「ぶぇっくしゅ!!!!」


こっそりと広間から抜け出して馴染みの副長の部屋で激しく相手を攻め立てていると、どうにもムズムズと鼻が痒くなって俺は大きなクシャミをかました。


「はぁ…あん…んっ…どうしたんだよ…エメンタール…風邪でも…引いたんじゃないか!?」


情事の余韻にまだ息を詰めながら副長が心配そうに薄目でこちらを伺った。


「クスッ。まさか!こんな真夏に!?それよりも、ほら!?もっと……感じて」


相手の耳元でそう囁くと、俺はゆっくりと腰の動きを再開させた。



(くそっ…ゴーダの野郎だな!!)


俺に不都合な事はとりあえず全部ゴーダのせいにしておく。それが苛立ちをおさえる最善策だ。



「あぁぁん!!エメンタール!!……もっと!!…んんっ。もっと奥までっ!!…はぁ!!…んぁ!!あぁっ!!気持ち…気持ちイイ!!…あっ…イクッ…エメンタール!!エメンタールゥゥ!!」


何度も俺の名前を呼びながら口付けを求めてくる副長を見下ろして、俺は自分の気持ちがどんどん冷めていくことに気が付いた。




(いつからこんなことを始めたんだっけ)



二人いる監視長の下につく副長や補佐長と関係を持ち始めたのは確か、あぁそうだ。ブリが亡くなってから二年。俺が15の時だった。




当時いた20歳前後の若い補佐長は、一人になった俺を半ば強制的に自分の部屋に誘い出すと、舌を絡めた激しい口付けをしてきた。


「んっ…ふっ…何するんだよ!!離せよ」


口付けをされ、激しい嫌悪感に襲われた俺は相手を突き飛ばした。



「なぁエメンタール!!頼むよ!!頼むから……俺を抱いてくれよ!!」


そう言って補佐長は監視服を脱いで壁に手をつくと、自らケツを突きだして俺に掘れと命じた。


「や…やめろよ!!何考えてるんだよ!!ここには女だっているんだ!!女を抱けよ!!」


男同士という未知の世界への恐怖に俺は逃げ出そうとした。そんな俺に向かって、男はそのままの体勢で震えながら事情を切り出した。


「お…俺、天主様の相手に任命されたんだ。次の新月の夜にお忍びでリコッタにいらっしゃる。天主様の命は絶対だ!!断ることなんか出来ない!!断れば……俺は処刑されるっ!!…なぁ、頼むよエメンタール!!お前は奴隷で年下だけど、俺はずっとお前が好きだったんだ!!女じゃダメなんだ!!」


(ーーーッ!!!)


足元にしがみつく男の必死の告白なんか俺は聞いちゃいなかった。ただ頭を強く殴られたように脳が揺れていた。


<天主がリコッタに来る>


その言葉だけが頭の中で反芻した。天主と呼ばれる敵国<和神>の当主は国内であっても滅多に表に顔を出さない。そんな人間がパニールのような僻地にまで足を運ぶなんて……初耳だった。


「なぁ!!いいだろ!?エメンタール!!頼むよ!!俺は本当にお前が好きなんだよ!!」

尚も足元にすがりつき拝み倒す補佐長を見ながら、俺はゆっくりと答えた。


「……あぁ、いいよ。抱いてやるよ」


「本当か!?ありがとう。ありがとう!!エメンタール!!」

補佐長は、自分の必死の訴えが俺に通じたとでも思ったのだろう。頬を朱に染めて今にも泣きそうな顔で喜んでいた。


だが、俺の狡猾な意識はそんな補佐長とは全く違うところで動いていた。




こいつらを抱けば、和神の情報が手に入る!!!!


それは俺にとって、突然に転がり込んだまさに好機だった。


『国を取り返す!!』


ロックフォールを始めとする大人たちの決意を、あの日俺もゴーダと一緒に聞いていた。でもそれは、どこに落ちているのか分からない仇討ちの機会を地に這いつくばって探すような途方もない話で、各地で幾度か暴動が起きたらしいがどれも決定打には到らず、結局俺たちが15歳になっても国取りの望みは果たされないままだった。



そんなこれまでの出口の見えない戦いに比べたら、こいつらを抱いただけで和神の、それも敵国の当主の情報が分かるかと思うと俺は目の前が急に開けたようにさえ感じた。



きっとゴーダとチェダーは、俺がこんな形で和神の情報を得ることを許さないだろう。それは大人たちも同じことだ。


それでも、俺はこの大きな機会を絶対に逃したくはなかった。


男を抱く嫌悪感や不安よりも使命感の方がはるかに強かった。


監視たちの間をうまく立ち回ることが必要なこの役目はバカ正直なゴーダや生真面目なチェダーには無理だと分かっていたから。


それからは、数えきれない程の監視たちを喘がせた。一度きりの仲の相手もいれば、中には何年も肌を重ねている高位の監視もいる。

ただ一つ、監視たちを抱くたびに感じた自分は穢れていくのだという幼い葛藤には、ひたすらに目をつむり続けた。




「ター…ル…」




「エメンタール!!」


副長に両手で頬を包まれた拍子に我に返った。気がつけば、いつの間にか副長が俺の上に馬乗りになっていた。



「どうしたんだよ…黙り込んで…!?」


不満そうに呟く監視に、しまったと思いながらも俺は機嫌を取る。


「ゴメン。あまりにも気持ち良かったから、ちょっと飛んでた」


嘘じゃねぇ。飛んでたのは事実だ。



「そ…そうだったのか。んんっ!!…あっ、まだ動くなよ!?あっ、そこっ!!」


「ここがどうかした!?」


「んあぁぁ!!もぉ!!意地が悪いな!!…んっ…あふっ…あぁん!!」





……何で今更あんな事を思い出してたんだ。



懐かしさに浸りながらも、それでも相手に隙を見せた事に俺は釈然としなかった。それからは意識を逸らさないように注意しながら丁寧に丁寧に相手を喜ばせていった。







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