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第三の国
獄中の計画3


ああ……パルだ。


バカだな。こんな所まで来ちゃったのか。




「なんだよ!!薄情者!!」


いつもは歯を見せてニンマリ笑う顔が今はムクリと膨れ上がっている。緊張感の無い二人の取りをぼんやり眺めていると、そこだけがまるで就労後の広間みたいで俺はやっと少しだけ落ち着きを取り戻すことが出来た。


「……パル、もういいよ。それ以上騒ぐと本当に獄中で死ぬことになりそうだ」


パルは俺の言葉に慌てて口を押さえてしまったと顔をしかめた。それからゴメンと俺に目配せをしてペコリーノからは思い切り顔を背けた。


「お前をここまで連れて来てくれた人だろ!?そんな態度取るな」


「ムッ……なんだよ。ゴーダだってさっき怒鳴ったろ」

「ああ、監視だと思ってたからな。疑って悪かった、ペコリーノさん」


俺は見上げた先にいる生首に向かって小さく頭を下げた。先ずは自分の非礼を。それから丁寧に自分を説き伏せた。


落ち着いて説明しろ、言葉を尽くすんだ。憤りだけをぶつけたって相手には何も届かない。


さっきぶちまけたヘドロのような感情を深呼吸と一緒に外に出し、ぐっと顔を上げた。


「だけどチェダーに対する暴言は許せない。アイツはガキの頃から側にいた親友だ。だからアイツが貶(けな)されれば俺は家族を虐げられたような気持ちになる。特に高砂との一件は相手の一方的な暴行でチェダーは犠牲になって傷ついた。だから軽い気持ちで親友を侮蔑したのなら撤回して欲しい。それに例え高砂の元にいたとしても、アイツは簡単に体を許したりはしない筈だ。パルの言う通りチェダーは闘ってる。自分と、身分と。俺はそう信じてる」


そこまで言うとペコリーノは数分前の歪んだ笑みの安い挑発が嘘のように屈託なく笑い、すみませんでした。無礼な物言をしましたね。とあっさりと謝罪した。


こんな安らかな顔で笑う大人の男がどうして何度も俺を挑発したんだろう。腑に落ちないペコリーノの態度は


(――もしかしたら俺はチェダーへの想いを言わされたのかもしれないな)


そんな風に心の幕引きをした。



「それから……ありがとう。監視が蔓延(はびこ)る中を命あるままパルを連れて駆けつけてくれて」


この人だってキツかったに違いない。いつか宮殿から来た監視が汗を吹きながらぼやいてた。三の宮は遠過ぎるって。その言葉が本当だとすれば、ペコリーノにはここまで来る事自体も一か八かの賭けだったんじゃないだろうか。






『ありがとう』


何かガキ臭くて全然口にはしないけど、お世辞にも若いとは言えない白髪混じりの冴えない男が見ず知らずの囚人の為に子供連れで命張って逢いに来てくれたんだ。そう思うと余計に口からは素直な言葉が溢れた。



「ありがとう……本当に」


ペコリーノはただ黙って笑い、自分の命のリスクに対する文句はそれからも一度だって言うことはなかった。



「元気そうで安心した」


パルに向かって笑ってみせる。心なしか潤んだパルの目が切なかった。


聞きたいことは沢山ある。





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