第三の国
本丸の後宮5
豪奢な建物に交じった肩身の狭い小さな奴隷棟は懐かしさと後悔の塊だ。
「すごく遠くに感じる」
目に映る距離だけじゃない。バッサリと切り離された心が悲しいと強く訴えた。
「逢いたいのじゃな」
口火を切ったおじさんは、そう言うとシワと傷のある温かな手でそっと俺の頭をなでてくれた。
こんな風に誰かに優しくされるのは久しぶりだった。
本当に、久しぶりだった。
寂しさや孤独感。
情けなさ。
無力。
一人になってからずっと追いかけてくる感情が怖かった。誰も助けてくれない。でも一人じゃとても闘えない。
もうどうしていいのか分からなかった。ただ我慢して耐えることしか出来なかった。
感情がどっと押し寄せてくる。止めたいのに止められない。
唇を噛んでも無駄だった。塞ぎきれない嗚咽が俺の弱さを嘲笑った。
ああ、ちくしょう!!
泣きたくないのに。
「うぁぁぁああああん!!!!」
気づけば子供のように声を上げて泣きじゃくっていた。丸く猫背になった老人の背中にしがみついて折角くれた金平糖も床にぶちまけて、大きな声で泣いた。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
迷惑かけて。助けられなくて。側にいられなくて。守られてばかりで。
ずっと一緒にいたかった。
ずっと、ずっと。
でももう、みんなと同じじゃいられない。
視界に入る自分の鬱金の繻子がこの世で一番疎ましかった。握りしめた老人の重陽樺に涙を染み込ませて、誰にも届かない本音を俺は力いっぱい涙で排出した。
味方のいない本丸の後宮。
優しく抱き締めてくれる老人だけが俺の救いだった。
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