[携帯モード] [URL送信]

第三の国
本丸の後宮


秋風がそよぐ気持ちのいい晩だった。



五年ぶりに真っ直ぐに戻った髪を窓から入る夜風に揺らして、俺は着なれない長繻子に首を縮めた。部屋の奥にある寝台では少年達が孵化の瞬間を迎えて甘く鳴いている。強い濃密な香りが室内を包んでいた。



「……汚いよ」


シルエットだけが見える寝所の奥がこの世で最も穢れた場所に思えた。金で少年達を買い漁った和神も、美しい身なりに満足して体を許す彼らも。俺にはちっとも理解出来なかった。




部屋に通されて五分。両扉を後ろ手に押して部屋を後にした。



人気のない廊下をひた歩く。踵のない平坦な和神の靴は足音もなく俺の存在を暗がりに溶け込ませてくれた。


辺りを見回せば値の検討もつかない様な細かい柄の壺や、柔らかく微笑む女性画が観賞用に飾られている。でも、上品な月明かりに照らされた女の絵は優しく微笑んでいる筈なのに俺を妙な気分にさせた。




睨まれている。


夜中の一人歩きで過剰な神経を尖らせていたのだろうか。それでも俺がその絵の横を通り抜ける際に感じた絵画からの視線は、まるで生身の女のそれだった。



背後から追いかけられるような強烈な違和感は、次第に真後ろからじっと観察されているような嫌な感覚に俺を引きずり込んだ。



一歩、二歩。


足が早まる。


振り返ることなんか出来ず



気づけば上階に向かって走り出していた。





[*前へ][次へ#]

31/37ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!