第三の国
本丸の後宮4
今夜も遠くの監視棟には宴の明かりが灯っていて、耳を澄ませば風に乗って賑やかな笑い声が聞こえて来そうだった。
本丸も一の宮も二の宮も、正門にさえ明かりは点いている。それなのに一ヵ所だけ。僅かな灯火もない古ぼけたその木造棟だけが、まるで存在すること自体許されないかのように闇の中で静かな眠りについていた。
「俺ね……ずっとあそこにいたんだ」
「奴隷棟か!?」
「うん。おじいさんは重陽から来た人だから知らないと思うけど……リコッタの奴隷って性根の明るい人が多くてさ。戦争に負けて以来、来る日も来る日も毎日虐げられて、理不尽な理由で鞭打ちされることも本当しょっちゅうだったんだけど――それでも、家畜だって罵られながらみんな必死に耐えた。大人なんて腹の煮える思いだった筈なのに。監視のいない所ではいつも笑って励ましてくれたんだ」
ロックフォールやカゼウスの会の大人達、亡くなったブリに慕ってくれたパル。暗闇にいる仲間を思うと胸が苦しくなった。
グッと奥歯を噛み締めて頭を下げる。小さな拳を作った手で強く眉間を押さえつけても目に焼き付いた暗闇の奴隷棟が頭に浮かんだ。
俺が体に流れる悲しみの脈を落ち着ける間、老人はただ黙って隣に座り口に含んだ甘い星の欠片を一人静かに味わっていた。
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