第三の国
エポワスから来た男の子5
「ブリ…!?」
言い知れぬ焦燥感に襲われた俺は彼の名を呼んだが、ブリからの反応はなかった。
怖かった。
隣で眠るブリからは、寝息さえ聞こえてはこなかったから。
(……で、でも深く眠っているだけかもしれない)
そう思った俺は、みんなを起こすまいと、横になったままの体勢でブリに寄り添いその小さな背中にそっと触れた。
(ーーーーッ!!)
その時になって、ようやくブリの異変と事の重大さに気が付いた。
(冷たい……)
俺はこの身に起こった事が信じられないまま、それでもブリの口元に手を近づけた。
(…どうして!?どうして!?)
今度は首の付け根で脈をとる。
(嘘だ!!いやだ!!いやだ!!)
俺は上半身を起こすと、ブリの肩を激しく揺さぶった。
(起きて!!……起きてよブリ。ねぇ、嘘なんだろ!?寝たフリなんてしてないで、顔を上げてよ!!……ブリ…ブリ…)
「頼むから……」
その言葉だけを小さく発して俯いた途端、堪え切れずに涙がこぼれた。
俺がどれだけ待っても、ブリからの返事はなかった。
堪らずに大部屋を抜け出して外に出た。
足に力は入らず、何度もよろけながら這うようにして歩いた。
監視の目をかいくぐり、みんなから一番離れた場所にある塔の裏手にたどり着いた。
髪が秋の風にゆらゆらと波打って、澄んだ空気が肌に触れる。見上げた空は美しく、満点の星が輝いていた。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!」
その夜空の下で俺は声を上げて泣いた。
「あぁぁぁ…ひっ…ひっ…うわぁぁぁぁ」
今日は泣かなかったブリ
でもそうじゃない。
本当は、泣けなかったんだ。
「うっ…うっ…あぁぁぁ…」
たった13年
幸せな時間は
戦争の前に一瞬で崩れ落ち
下劣な大人の遊び道具にされて
最期は死んでいく
どれほど悔しかったか
どれほど和神が憎かったか
もう二度と泣けない彼の分も、俺は涙が枯れるまで泣き続けた。
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