第三の国 懸け5 俺もあけびも語らぬまま、寂々とした寝室で無言の応酬だけが続いた。 階下は張り詰めたこちらとは違い相変わらずの飲めや歌えのバカ騒ぎだ。何かが派手に割れる音がしたかと思えば、すかさず監視たちの大笑いがそれを打ち消す。 呂律の回らない舌で和神の国歌を一部屋が唄い出せば、それはたちまち各部屋に伝染してやがてむさ苦しい男たちによる棟を上げての大合唱になった。 あけびはバツが悪そうに俺を解放するとぽりぽりと頭を掻いていつものふざけ調子に戻り、自分も仰向けに横になった。 お互いに天井を見上げながらそれまでの気まづさを払拭するように呼吸を繰り返した。ややあって、隣がくつくつ揺れているのを感じとる。 「お前はなぁ。天の邪鬼な上に意固地なんて……ホント可愛くないなぁ」 「あんたは何かってとソレだな。別にいいよ。俺は可愛くなんてなりたかない」 どちらかと言えば男として格好がつく方がマシだ。今のあんた位に。心の中でだけ呟いた本音はさらっとかわした言葉に乗せて切り捨てた。 毎度毎度な子供扱いに多少の不服はあれど、わざわざ突っ掛かったりはしない。憤慨なんかして余計な幼さを見せる事もないだろう。 「お前はなぁ……本当に、どうしたもんかね」 ひっくり返ったまま瞼に手の甲を当てて、嬉しいのか困ってるのか非常に判断がつき難い声をあけびは漏らした。 何度も何度もお前はなぁと呟き、俺はその先が気になるむず痒い響きに、首を縮めて繋がったままの両手を居心地悪く擦り合わせた。 「エメンタール」 素っ裸の下半身の頼りなさに気を取られていると、ふいに名前を呼ばれて俺は目線だけを送った。いたずらっぽいあけびの笑顔が愉しげに映る。 「賭けをしねぇか!?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |