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第三の国
賭け


離宮を揺さぶる大歓声は祝宴となって監視たちに引き継がれていった。


上監から下監に至るまで酒飲みが廊下を千鳥足で横行し、和神万歳と謳いながら朝まで猛る。


監視棟の最上階まで聞こえる監視たちのバカ騒ぎに俺は素直に苛立ち、顔を歪ませた。



祖国が消えていく。


その実感がえぐるように胸を刺した。この五年で町は他国の貴族によって埋め尽くされた。人々の尊厳も落ちる所まで落ちたし、他諸島の産物も和神の私腹を肥やす絶好の食い物になった。


容赦なく侵略の鬼が食い駆けてくる環境で、それでも俺がまだここをパニールだと思えたのは恐らく象徴となる物が何もなかったからだ。



パニールが支配下に置かれたという確固たる証。それが塔を最後にリコッタに刻まれる。窓辺に腰掛けながら苦い唾を飲み込んだ。



「感心感心!!ちゃんとあけびさんの言いつけを守ってるみたいですね」


盆に化膿止めと痛み止めの薬を乗せた源平が寝室の奥に俺を見つけて一つ二つ頷いて入ってくる。


男なのに首から垂れる薄藤の後れ毛が艶かしい。何日もろくに眠っていないようなしょぼくれた眼から、日々の激務と疲労が察せられた。


「部屋の中ばっかじゃ、息が詰まります」


毎日毎日看病されている事もあって隔たりは次第に浅くなってはいたが、相変わらず俺は一定の距離を置いて源平と話をした。机に置かれた薬を上を脱いで勝手に傷口に塗る。


源平は自分の役目を取り上げられて少し困惑したように眉を下げはしたものの、私の仕事ですからと頑なになるような事はなかった。

ただ茶化すように目を細めて反撃はした。



「そうですね。ご主人様を待つだけの日々はさぞや切ないでしょう」



目を閉じて胸に手を当て幸悦に浸る三十路近い男。妙にハマる。



「誰のことです!?つか、気持ち悪っ!!」


すっぱり切り捨てた。後は自分でやるからと謝意を込めて軽く会釈する。来て早々に退出を促された源平はひょいと肩をすくめ、それでも自分の事は極力自分でという俺の意思を尊重してくれた。


届かなければ監視長を使ってやりなさい。そう一度冗談を言い、お決まりの柔らかい笑顔でお休みなさいと言って部屋を出て行った。






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