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第三の国
もう一人の咎人6


手を耳に当てる。人の声のような気がする。でも遠い。必死に聞こうとしても何故か遠い。


「ああほら、まだ地鳴りも続いてる」


えっ、と思った。地鳴り?地上、といっても俺にとっては天井だが、とにかく注意して眺めた。本当だ。揺れてる。床の落ち葉にばかり気をとられていた。天井の石の隙間からパラパラと砂が落ちて来る。


「ここの監視がいないのも恐らくその為でしょう」


「監視たちが一斉に反旗でも翻したとか?」


だったら万々歳だ。やれやれ、自滅しろ。


「そうですね。狂ったような声だ。血が流れているのかも――もっとも、反旗を翻しているのは監視たちではないかもしれませんが」


心臓が跳ね上がった。真っ先に頭に浮かんだのはロックフォール率いるカゼウス会が夜な夜な密談していた風景だ。本当は知ってた。離宮の完成を期に大人たちが何をしようとしていたのか。全部ぶっ壊して、もう一度国をひっくり返そう。そう互いに誓っていたこと。俺は見てみぬ振りをしてきた。ビビってたんだ。全面戦争をしかけて、もしも負けたらって……そう考えると怖かった。だって俺たちにはいくつも負けた前科があるじゃないか。




「なあ、一体何の騒ぎなんだ!?アンタには分かるのか!?教えてくれよ!!内紛か、反乱か!?」


監視か、奴隷か。俺は格子を掴んで必死に正面の独房に向かって訴えた。


「悲鳴を上げてる人は!?大砲や剣の交わる音はしないか!?クソッ、アンタにはいつから聞こえてたんだ!!」


力の限り叫んでまくし立て、目の前の鉄格子を派手に揺すった。だけど、地下牢全体に響くほどの俺の声に男はまるで反応しなかった。こんな格子さえ無ければ、胸ぐらをつかんでぶん殴ってやるのに!!



「おい、ふざけんな!!黙ってないで答えろよ!!アンタにはどう聞こえてんだ!!!!」

どこまでも急く気持ちを、格子を蹴りつけて訴えた。



「教えてくれ」


最後に絞り出した声は弱々しかった。俺は哀しげな目で俺を見てそっと口を開いた。



「何て事ない。ただの歓声ですよ」


「かんせい?」


一つ一つの言葉が脆く崩れてバラバラになる。上手く頭に入らない。


「入殿前でしょうから門か塔あたりですかね。今ごろここの監視たちもあの熱狂の渦の中で声を張り上げている事でしょう」



そして男は格子の隙間から両腕を突きだし、語った。


「死骸になっているそこのねずみ。それと同じ薬を貴方も飲みましたよね!?」


「ああ、すぐに吐き出したけどな」


以前、高砂派の監視たちによって殺されたねずみは片づけられる事も埋葬されることもなく独房の隅で白骨化した。一時期は強烈な腐敗臭を漂わせて俺は日に何度も吐いた。苦しみ悶える俺を見て監視たちは嬉しそうに笑っていた。どこまでも崇拝する高砂にそっくりだ。性根が腐ってやがる。






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