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第三の国
もう一人の咎人5


「気遣いはありがたいけど、俺本当にどこも悪くないぜ!?あ、確かに。ヒョロっこくて傷も多いし、アンタから見たら目も当てられないような体かもしんないけど……こんなの今に始まった事じゃねぇんだよ!!この離宮が建てられた当時から高砂のバカとは馬が合わねぇんだ。だからこの傷だらけの状態が俺の標準なんだよ!!」


俺はいくぶん丁寧に再度男に訴えた。おかしな所なんて何処にもないと。


「……すまない」


何に対する謝罪なのか、俺の自虐話への詫びか。そんな話をさせて済まないって?だったら最初から言うなよ。


「止めろって!!何でアンタが謝るんだ。別に聞かれて嫌な話とかじゃねぇよ」


「それでも……」


やはりすまない。男はもう一度頭を下げて悔しげに謝った。妙なヤツだ。変に律儀と言うのか。言葉使いも丁寧だったり、偉そうだったり。ちぐはぐだ。それに、俺が毒に侵されているって俺の話はもういいのか。


思い詰めた顔つきはどこか遠くに想いを馳せているようで、会話を続ける気にはならなかった。


このまま話が切れるならそれでいい。おっかなさそうな話にこれ以上つき合うのもゴメンだし、べらべら喋ってここにぶち込まれた理由なんて聞かれるのはもっと遠慮願いたい。



俺は謝罪したままどこかに心を飛ばした男の邪魔をしないよう、物入れに忍ばせた二枚のいちょうをそっと取り出して眺めた。




二人とも、無事だろうか。



高砂はあれからどうなった……。まさか復帰はしていないだろうが、いくらか回復はしただろうな。クソッ。またチェダーに手を出したら今度こそぶっ殺してやる!


ふつふつと沸き上がる怒りに奥歯を噛んだ。


アイツに頼るのは癪だが、絶対に二人を守れよ。肩書きは同じ監視長だろう?万が一、なんかあってケガしても源平って医者が助けてくれる筈だ。保障なんかないけど……高砂の一件でも俺まで手当したような人だ。何よりあけびの部下だ。奴隷に惨いことなんてしねぇだろう。



「人任せばっかでイヤになるな」


その場に寝転がって俺の血で汚れた石床に堂々と体を預けた。監視たちの足音は一向にして来ない。このまま大の字で眠ってやろうか。目を閉じて、後から俺を見付けて憤慨する監視たちを想像したら久しぶりに笑えた。





そして、やっと気がついた。


ガバッと起き上がって耳を澄ませる。


遠くで風のうねりのような物が聴こえる。




何だ!?






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あきゅろす。
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