[携帯モード] [URL送信]

第三の国
現れた天主12


「お前も先の一件で懲りただろう…!?恐ろしい虫に喰われそうになったんだからな…くひひっ」


「なん…でっ……何で、お前がその事を知ってるんだっ!!」


俺が手負いになったのは、あけびや他の上監から漏れ聞いていたとしても納得がいく。むしろ監視長の耳に入らない方がおかしい。



でもコイツが虫の事まで知ってる筈がない……。



俺に集った虫たちは、あけびが松明の炎で追い払って散り散りになったんだ。例え誰かが後で現れたとしても、あのどしゃ降りの中で見つけるのは至難の業だし、虫たちもそうそう目立つ場所になんか居なかっただろう……。


それなら、考えられる答えは一つだ。



「お前が――仕組んだ事だったのか」


目の裏でドクドクと脈があらぶる。


「くくっ…実に面白い計らいだっただろう!?私を刺した卑しい家畜、それにその友が憎いと吹かしただけで彼らは愚直なまでに素晴らしい働きを見せてくれた……ふっ。最も、あの一件でお前が死ななかったのは想定外だったが――とんだ邪魔が入ったものだ」


俺を嘲り笑う高砂の目付きは記憶の中の天敵を思い出し、強く拒絶していた。



「なんでだ。どうしてそこまでチェダーにこだわる……これまでだって、手に入れようと思えばどうとでもなった筈だ!!それなのに……、どうして今さら!!五年も見逃しておいて何で今さら手のひらを返すんだ!!」


高砂の理想奴隷であるチェダーを手に入れたい……本当にそれだけなのか。それだけの為にここまで執着するのか――。


押さえられた体から力を振り絞って暴れた。痺れを切らせた従者たちが鞭を構え、大きく振りかぶる。背中も尻も焼けるように痛かった。打たれたことで木椅子の前に這うように倒れ込んだ俺の頭に、ズシリと重い高砂の足が乗った。



「ひひっ……諦めろ。お前にはもう、どうにも出来まい」


側頭部に入った蹴りが闘いの終わりを告げた。高笑いと共に地獄の輪が解き放たれ、盛大な祭り模様の廊下には、その場に不釣り合いな程みすぼらしい俺と、一部始終を目を伏せて早足に往来していた監視たちが残された。














その頃――。



門から宮殿、そして中の丸を結ぶ大路地を大歓声のなか一基の御輿が進んでいた。


赤い長繻子の一団に護られたその輿の先頭には紅梅と鶴の国旗が高々と揚がり、いちょうの葉に染まった大路地は美しく秋を報せた。








[*前へ][次へ#]

12/37ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!