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第三の国
現れた天主9



「あまりに賑やかで驚きましたか!?」


昨夜の激昂はどこへなりを潜ませたのか、薬瓶片手に部屋に現れた源平はいつもの柔らかな顔で微笑んでいた。俺は挨拶変わりに小さく頭を下げ、一体何が起きたのかと源平に尋ねた。


「宮殿が完成した件はご存知ですか!?」


「ああ……はい。聞きました。俺がここに来た後の事ですよね!?でもまだ塔は完成に至ってないって――」


「その通りです。ですが待ちきれずにご来訪されてしまわれたのですよ。こちらの予定もお構い無しにね。全く……困ったものです」


「はっ!?一体誰の話ですか!?」


源平の意図する人物がわからずに首を傾げると、長い睫毛を伏せた目が俺を捕らえず悲しく離れた。



「あなた達にとっては、最も憎むべき……敵にあたる方です」






遠くから歓声が上がる。


このやけに浮き足だった騒ぎは何なのか。地鳴りのような人々の叫びと、源平の嘆くような微笑みが胸を大きくザワつかせた。


「こんな感覚は初めてだ」


まるで足が行き先を知っているみたいに勝手に動いた。


「待ちなさい!!あなたはダメです、エメンタール君!!また昨夜のような事になりかねない!!ここに居なさい!!」


「退いてくれ!!」


俺の腕を力強く掴む源平の手を強引に振り払って、俺は引き寄せられる先へと駆け出した。







無茶は承知で今できる全速力で走った。三階を駆けただけで息が上がる。何度も転けては立ち上がり、振れない腕ともつれる足に動けと号令をかけ続けた。


角を曲がる度に誰かにぶつかる。怒号が飛んでも構わなかった。監視棟の中を一目散に走りつづけると、長く続く廊下の先に見知った顔が見えた。


従者に付き添われながら木椅子を揺らす男の姿は、最後に会った時からは比べられない程に痩せて老け込んでいた。月夜に血まみれで倒れていた男の残像が切れ切れに甦る。




「くっひひっ……お前の宝物は手の届かぬ場所に行ったぞ!?エメンタール」



走り去ろうとする俺に以前と変わらぬ蔑みの出目を向けて、高砂は不気味にニヤリと笑った。









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