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第三の国
現れた天主8


俺があけびの部屋の寝台から起き上がる事が出来たのは、翌日の昼を過ぎた頃だった。


「頭いてぇ……」


――あれから。


騒ぎを聞きつけて風呂場に飛んできた源平に俺とあけびは烈火のごとく叱られた。俺は担架に積まれて部屋に逆戻りし、呼吸が落ち着いてからも寝室はおろか寝台から降りることも許されなかった。渦巻く怒りの重圧の下で、全く心の休まらない一晩を過ごしてあまり寝た気がしない。



「隣は……執務室……か」


もぬけの殻になった寝台の半面を眺める。小言を寝物語に聞かされ続けた俺とあけびは昨夜遅くに就寝した。数時間だけ互いの寝息を感じ、空が白む頃になるといつもの様にあけびは一人静かに部屋から出ていった。



掛け布をめくって昼過ぎに現れると言った源平の気配を探る。いない事を確かめると、そろりと足を床に着いて寝室を出た。






「……何の騒ぎだ!?」


沢山のせわしない足音が部屋の前を往来する。入口近くの棚に置かれたガラス鉢がカタカタと鳴って中の水が振り子のように大きく揺れた。俺は慌てて鉢を支えに行くと、廊下を急ぐ人々の声が耳に入った。


「おい!!御膳の準備急げ!!」

「ほら。退けよ、危ないじゃないか!!」


「違う!!回廊の飾りはもっと重陽風に!!長旅のお疲れを癒すように工夫しろ!!」

野生動物が水場でも見つけて踊っているんじゃないか。そう思うほどに行き交う足並みのどれもが、どたどたとした監視にしては品のない動きだった。


明らかに往来が過ぎる。



窓辺から外を覗くと、奴隷たちが列をなして歩いていた。





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