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第三の国
もう一人の咎人3


鉄格子にすがりながら骨と皮だけになったひしゃげた体がゆっくりと持ち上がっていく。そいつが動く度に真っ黒な長髪が生き物のように蠢き、石床の上をずるずると這い回った。


俺は覇気のない一連の動作を黙って眺めるしかなかった。まるで泥の中から沸き上がる人形を見ているようで、今まで気づかなかった他者の存在にただ驚き固まった。


半季近くここにいる。なのに、コイツの息遣いはおろか物音一つ聞き取れないなんて……ああ、そっか。俺の気づかないうちにどっかの懲罰房からここに移されてきたクチか。何したか知らねぇけど、もっと普通に立ち上がれよ。



でも……良かった。



一人じゃねぇ。









立ち上がった独房の住人は男だった。俺とそう変わらない身の丈。髭やぞろぞろと長い髪で随分みすぼらしく見えるが、年は若い。二十そこそこだ。



「……るんですか!?」


「はっ!?」


男の口が動くのを見てハッと我にかえった。


「私の声が……聞こえるんですか!?」


妙に弱々しい口調にさっきまで怖じ気づいていた自分が一気に馬鹿らしくなった。暗がりに居すぎたせいで頭がおかしくなってんのかも知れねぇ。


落ちつけよ、ゴーダ。


そう自分に言い聞かせて深く息を吐く。



「聞こえて……ないんですか!?」


コイツ、自分のことを私って言ってたな。ならここに来る前はパニールの貴族か、裕福層のお坊ちゃんか。


「聞こえてるよ」


俺はつっけんどんに答えると、素直に驚きを伝えた。


「つーか、脅かすなよ。だいたいあんたいつからそこに居たんだよ!?あと、立ち上がる時は普通に動いてくれ。あれじゃあまるで化け物だ」


「ははっ…すみません」


小さく頭を傾け、男は胸に手を当てて丁寧に詫びた。板についた礼の仕方が益々高貴な香りを漂わせる不思議な人だ。


「ここには見ての通り俺以外はカビ臭ぇ監視しかいないぞ!?今日はやけに人数が少ないけど、鐘が鳴ったから直に交代の監視が来るだろう。気をつけた方がいいぜ」


「ああ……鐘の音は聴こえるんですね」


少しほっとした様に男は息をついた。


……訳がわからない。何が言いたい。自然と顔に力がこもって眉をひそめる。


「――何言ってんだ!?それより、あんた大丈夫かよ!?どれだけ長くいたらそんな成りになるんだ。それに、そんなガリガリで……もっと早く居ること教えてくれりゃ、食料も分けてやれたのに」


相変わらず続いている謎の食料供給。そのお陰で俺は今も生きていられる。送り主は多分、立ち回りの上手い仲間内の誰かだろうから頼めばきっと食料も追加してくれる筈だ。


「大丈夫でないのは私じゃない」


俺の後ろめたさを男は真顔で受け止めた。


「あなたの方だ」








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