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第三の国
現れた天主7



頭のてっぺんから一気に血の気が下がっていく。


それなのに全身の毛穴からはドッと脂汗が噴き出した。


どうしてアイツがここに……いや、それよりも。


俺は急いで男の周りに視線を走らせ、男の他にあの日いた面子がいないかを確かめた。右側から左側、それから後ろ――俺の位置から見えるのは細目の男だけだった。


ひとまず安堵し、視線を男から外そうとしたその瞬間――――。


強烈な嫌悪の眼差しが和やかな空気に紛れて俺を射抜いた。


外しかけた視線が行き場を失って男に支配される。不敵に笑うわけでも罵倒するわけでもない。だけど俺は男が自分に向けるまがまがしい殺気を、抑揚も気色ばむ事もない無表情な顔の中に確かに感じていた。


「……エ……タ…ル」


指一本動かせない。瞬きさえ出来ない。全身が心臓になったように煩かった。


じわじわと蘇る烙印所の陰湿な空気と狂気した監視たちが振るう鞭の感覚。まるで今打たれているように背中の傷はズキズキと痛み、体を伝う水滴が得体の知れない無数の茶褐色の虫になる。



「うぁぁああああああ!!」


俺は絶叫しながら頭を抱えてその場にうずくまった。胸が苦しい。呼吸が出来ない!!息が!!吸わなきゃ……空気を吸わなきゃ死んじまう!!


吐き気がするような目眩と耳鳴りが余計に俺を混乱させる。息がどんどん荒くなり苦しさで涙が滲んだ。


歪んだ視界にはわらわらと再集合する監視たちとその隙間から覗く男の横顔が映る。


壊れた気管を止める術なんて俺にはない。機能を忘れた体でぜえぜえ喘ぎながら空気を貪ることが精一杯だった。




苦しい…っ…、苦しい!!


手足が痺れ出して悶える俺の腕をこれ以上ないくらい誰かが強く掴んだ。鼻に衝撃が走る。首を反らされて後頭部をがっちり固定されると、暖かな空気が唇を通じて一気に肺に流れ込んだ。小刻みだった呼吸を覆すように、ゆっくりと息が落ちてくる。



知らない唇。


だけどその味に、柔らかさに、言い知れない安心感が湧いてきた。


これ以上の借りは作りたくない。なのにどうして俺はまたコイツに助けられてるんだ……。





やっと焦点の合った瞳の前には、烙印所で見た時と同じ真剣な顔つきのあけびが俺の命を再び拾い上げてくれていた。







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あきゅろす。
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