第三の国 現れた天主6 俺とあけびは野次馬の監視たちが一通りはけるまでしばらくそのままじっとしていた。通路の奥にある監視たち専用の浴場が今なら部分的に見える。そこには、やっぱりとか噂のとか言い交しながら妙な盛り上がりをみせる男たちがいた。 「まだ騒ぎ足りないのかよ……。アレ、全員あんたの部下だろ!?何か阿呆っぽい匂いがする」 俺が呆れて鼻息を吹くと、それを聞いたあけびは口角を上げて肩を震わせて笑った。 「のぼせそうだし、俺は上がるぜ」 腰布の結び目を引っ付かんで立ち上がり、あけびの返事も聞かずに浴槽の縁に足をかけた―――― そして俺は、そのままへたり込みそうになった。 監視浴場に耳の欠けた男がいる。 印象的な細い目。 忘れもしない。 それは俺を烙印所に連れ込んだ高砂派の主犯の男だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |