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第三の国
現れた天主3


薬瓶を奪い返そうと伸ばした手を簡単に払われ、じっとしてろと頭を小突かれた。


慣れた手つきで腰から侵入したデカイ手が雨降りの外気を纏っていて冷たい。


肌を滑る指先に体が縮こまった。


腹の底がむずむずする。早く俺の上から退けと罵ってやりたい。俺に構う暇があるなら蜂蜜酒でも飲んでさっさと寝ろ。


いつもなら言える軽口もさすがに今日は陰を潜めた。

さっきまでは距離があったから気づかなかったけど、近くでその顔を覗き見るとあけびの疲労がよく見てとれたから。


クマの出来た目は瞼もずいぶんと重たそうに張りついているし、いつもより長い不精髭も手入れする時間すら無かったのか、元から老けた面が五つは年くって見えた。雨露にしっとりと濡れた髪は無作為に跳ね飛んで体からは汗の匂いがする。


癪なのは、普通の男ならおっさん化まっしぐらでも何故かあけびは男くささが上がっている。野性味が増したと言ってもいい。十八の俺には持ち得ない男としての盛りが気に入らなかった。


「何だよ、拗ねた顔して!?」

「…………べつに。いいからあんたは湯あみでもして…寝…ろ…」


素っ気なく返した俺の言葉は言い終えない内に突然部屋に轟いた破壊音に消し飛ばされた。


驚いた俺とあけびが音のした部屋の入り口付近を見ると、若い監視が青ざめた顔で立っていた。


粉々になったガラスの水差しが少年の足元に飛散し、零れた水が床に大きなシミを作っていく。


「も、も、申し訳ございません!!まさかあけび様がお戻りとは思わず、伺いも立てずに入って来てしまいました。どうかご無礼をお許し下さい!!あ、あの。それで……俺…か、片付ける道具を取りに行ってきます!!」


ガラスが散った床に頭を擦り付ける勢いで謝罪し、最後は赤面しながら少年は逃げるように部屋から去った。





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あきゅろす。
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