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第三の国
現れた天主


雨音で目が覚めた。


この秋だけで三度目だ。


一度目はチェダーが襲われた夜、二度目は烙印所の中で背中を焼かれながら聞いた。


雨の降らないリコッタに滴る天からの恵みを五年前は素直に喜べても、今はもう不吉の象徴のように心に暗い影を落とした。







「ただいま」



部屋の扉が開いたと思ったら、いつもより少しだけくたびれた成りの男がひょっこりと顔を覗かせた。俺は男の姿を認すると寝台の枕にでこを張りつけ、ぶっきらぼうに答える。



「何だ、もう帰ってきたのかよ。役立たずだって帰されたのか!?」


「ははっ、まさか。逆に帰らないでくれって泣かれて困ったよ」


「エポワスで囲ってた愛人か何かか。ご苦労様だな」


「……お前、ずいぶん元気になったな」


「良いもん食ってるからな。欲しくもないのに」


銀盆の上の食べ終わった皿を眺めた。俺用に特別に作られた療養食は、あけびが配膳係に頼んだものだ。俺は食事はいつも通りの奴隷飯がいいと申し出たけれど、あけびと源平が頑としてそれを受け入れなかった。

俺だって本当は鶏の餌ほどの奴隷飯を疎ましく思っていた。だけど、新鮮な果実や魚を口に運ぶ度、俺は広間で飯を食うみんなの事を思わずにはいられなかった。自分だけがこんな扱いを受けていい筈がない。


今日も枕の下に腕を突っ込んで更に頭を埋める。言い知れぬ罪悪感が募った。




「お前は天の邪鬼にはなれるくせに、人には素直に甘えられねぇんだな」


寝台の沈みを感じて目線を上げると枕元にあけびが腰掛けていた。苦笑を漏らしながら眉を下げている。大きな手が伸びて俺の頭を撫でた。


「………むかつく。あっち行けよ」


あけびの手を払いながら視線を外した。



「口が達者で結構だ」



――多分、コイツは俺の気持ちに気づいてる。日に日に膨れ上がる仲間に対する後ろめたさ。


それに――





与えられる食事に本当は俺が感謝していることも。







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あきゅろす。
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