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第三の国
闇の人2


「クヒヒッ……実は良いものを貰ったんですよ」


笑い方まで高砂を信仰しているような監視の笑いに不快感がみなぎった。男は虚ろな目をしたまま懐を漁って小さな瓶を取り出した。

「これを飲むと、ものの数分で心臓が動きを止めるとか」


「お前っ……!!そんなものを一体どこから!?」


「それは言えませんね。そう言う約束ですから」


一見すると何の変哲もない無色透明の液体を数滴瓶から垂らし、男は誇らしげにいい放った。ほんの僅かな量にも関わらず、液体は草木や果実から採れる液汁のような甘い香りを辺りに漂わせ、牢に住み着いている鼠が誘われるように此方に近づいてきた。


俺たちは息を飲んでその動向を見守る。鼠は鼻を利かせて液体の匂いを嗅ぐと、やがて頭を下げて口をつけた。


その途端、甲高い鳴き声を数回上げると今度は悶え苦しむようにひっくり返り、ぴくぴくと痙攣してやがて動かなくなった。




眼前に映る残酷な現実がとても信じられなかった。





襲い来る恐怖は小瓶を手にした監視によって一層強くなった。男は隠し切れない薄笑いを顔に浮かべ、勝ち誇った笑顔で次はお前の番だと視線を送った。


冷静沈着だったもう一人の監視も渇いた笑い声を短く漏らし、腕を伸ばして歩み寄ってくる。


腹を抱えながら条件反射でそれを避ける。頭の中で警鐘が割れんばかりに鳴り響いていた。男たちの狂ったとしか思えない行動は鈍った思考では理解が出来ない。ただ危険だと、俺の本能が訴えていた。


力ずくで押さえこまれる。

「いいのか!?処刑班が来る前に俺を殺したらあんたらも無事には済まないんじゃねぇの!?」


精一杯張った虚勢は口の中に突っ込まれた男の指で嗚咽に変わった。ごつごつと節くれた男の手が強引に口を開かせようと暴れる。俺は形振り構わずその指を力いっぱい噛むと口内に血の味が広がった。怒った監視に更に奥深く喉元をつかれ顎を外されそうになると、さすがに抵抗感は弱まっていった。


俺の髪を引っ付かまれ小瓶を頬に当てられる。芳香が鼻をくすぐり、息がかかるほど顔を寄せて来た監視は興奮したように頬を高揚させていた。


「確かに俺たち地方監視に処刑は許されていない。だがな、罪人が獄中で死んでも俺たちが罪に問われない方法がたった一つだけある」


興奮したように語る男はおぞましいの一言だった。その先の言葉を、男はたっぷりと時間を置いた後に言った。




「罪人の病死だよ」






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