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第三の国
書簡5

小さなため息に次いで眉が下がる。喉を通った嫌な感覚は気道に止まることを忘れて胃に流れ落ちてしまった。


「まっずい薬湯の味は今ので吹っ飛んだな」


もじゃが転がした盆を拾いに行きながら答えると、緊張を解いたように少年はにこっと笑った。


「重陽樺を見たのは初めてか!?」


あの時は、もじゃのあまりの驚きように俺の方が面くらった。細い首に乗っかった大きな頭が輝いた目をひっつけて縦に揺れる。


「地方監視の憧れです!!みんないつかあれを着たくて頑張っているんです」


「あんなすぐ裂ける安物半紙みたいな生地の服がか!?」


「な、な、なんて事を言うんですかぁ!!しゅ、繻子ですよ。繻子!?それに重陽樺を着られるのは中央政府内でも限られた人間だけですから」


「そんなお偉方が、長老や神官じじいの命令ひとつで早馬扱いだけどな」


こらえていた欠伸をすると、目尻に涙が滲んだ。


自室の寝台に横たわる少年を再び思いだし、どうしているだろうかと考えた。


気恥ずかしくなって部屋に置いてきたはいいが、どうにも気がかりで仕事に集中できない。


腕の中に閉じ込めた少年の感触とまだあどけなさの残る寝顔が蘇る。触れそうになった唇から漏れる吐息の熱。引き寄せた時の細い腰。

「だぁぁぁ!!くそっ!!」


「あ、あけびさん!?」


こんな小僧みたいに悶々とするくらいなら……。


「強引にでも奪っとけば良かった」


「はっ!?」


「はぁ……。こっちの話。いいよ気にすんな。三十路近くなると男も色々考えるんだよ」


もじゃの頭を軽く叩きながらそろそろ行きなと退室を促した。もじゃは張り切った様子で見張り番に向かい、俺は誰もいなくなった部屋の中で一人椅子に深く腰かけた。



「これまでも散々傷ついたろうに、ここに来て追い討ちをかけるように書簡が届くなんてな……」


手にした薄桃色の半紙を見つめながら、動き始めた時間の流れを強烈に感じた。






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